小室圭の就職先を、その世界から来たジョーが解説

小室圭がニューヨークの法律事務所に就職したという報道があったのでググってみたら、なんと就職先はLowenstein Sandler(ローウェンスタイン・サンドラー)法律事務所ではないか。

Lowensteinは僕が内定をもらっていた事務所。最終的に辞退したが、ひょっとしたら小室圭の先輩になっていたかもしれないと思うと、「小室圭文書パロディー」なんてものを書いたことをちょっと反省している。

僕の経験上、Lowensteinはなかなかの事務所である。つい最近まで小室圭が飛び込んだ世界にいた者として、彼の今の境遇を解説してみようと思った。

【ジョーとLowensteinの関係】

まずは、僕が今までの経歴の中でどうLowensteinと関係してきたのか、簡潔に説明していく。

  • 高校まで、ニューヨーク州に隣接しているニュージャージー州に居住(実はニュージャージー州が小室圭の今を語るのに極めて重要)
  • 大学はボストンカレッジを卒業(名称にもかかわらずボストン市内にないが、この事実は小室圭と関係ない)
  • ロースクールはボストンカレッジへの進学を試みたものの、見事落ちてしまい、ニュージャージー州立大学ラトガースロースクールに進学(この事実も小室圭とあまり関係ないが、今だからこそ笑えるこの時の苦い経験について書いたブログをPRしたかった)
  • 一年後、ボストンカレッジ・ロースクールに編入し、Juris Doctorと呼ばれる学位を取得(学位が小室圭を語るのに重要)
  • 在学中、Lowensteinともう一つの法律事務所から内定をもらう(よって、Lowensteinと面接した経験がある)
  • 卒業後、ニュージャージー州裁判所で裁判官の助手である法務書記(Law Clerk)として1年間勤務(この時、Lowensteinの仕事ぶりをじっくり拝見)
  • ニュージャージー州とニューヨーク州の司法試験に合格(これは大したことがあるようで大したことがない
  • 法務書記としての任期満了後、本拠地がニューヨーク市にある法律事務所に入所(所属は小室圭と似たような企業法務部)
  • 数年後、同事務所の東京支部に異動(Lowensteinではこれができなかったので内定を辞退)

【Lowenstein Sandlerとはどういった法律事務所?】

さて、ここからが本題である。

小室圭が入所したLowenstein Sandler LLPについて、日本の報道の多くは「ニューヨークの法律事務所」と紹介しているが、これにはちょっとした語弊がある。

Lowensteinの本拠地はニュージャージー州の郊外にあるRoselandと呼ばれる街にあり、ここがいわゆる本社である(僕が面接したのもそこだった)。小室圭の勤務先であるニューヨークオフィスはいわば支部であり、イメージとしては、大阪に本拠点を置く法律事務所の東京オフィスみたいなものだ。

(余談だが、日米双方に詳しい人がよく「ニューヨーク州が東京なら、ニュージャージー州は埼玉」と言ってニュージャージー州を揶揄するが、ニュージャージー州に愛着がある僕としては、この失敬な比喩に異論を唱えたい)

Lowensteinは近年ニューヨークで急激に拡大しているようだが、原点を踏まえると、やはり「ニュージャージー州の法律事務所」と表現する方が適切である。

Lowensteinに所属する弁護士数は300人超(スタッフも含むと500人弱と思われる)で、年間収益は400億円弱。ニュージャージー州の法律事務所としては、規模的にも資質的にも上位1、2を競う事務所だ。当然、費用も高い。

ニュージャージー州の裁判所で法務書記を勤めていた1年間、僕はありとあらゆる法律事務所が作成した書面に目を通してきたので、Lowensteinの良質を判断できる立場にいたと考えたい。

それについてすごく表面的な話をすると、Lowensteinが裁判所に提出する書類は、ちょっと厚手の紙に印刷されていたので、触っただけで高価な紙が使用されていると分かった。もちろん仕事の内容もよく、書面には誤記がなく法律的な論理にも筋が通っており、裁判所の仕事をしやすくしてくれた。

そんなLowensteinを知らない弁護士は、ニュージャージー州にはまずいないだろう。

しかし、米国の法律の市場は極めてローカルだ。ニューヨーク市に本拠地を置く大手事務所でさえ全国的な知名度があるとは言い難い世界で、Lowensteinの知名度はどうしてもニュージャージー州に限定されると言える。(実際、僕がニューヨークで働いていた時、一度もLowensteinの名前を耳にすることはなかった)

また、規模的にも、1000人超の弁護士を抱えるニューヨークの大手法律事務所と比較すると、Lowensteinは決して「大規模」とは言えない。僕は900人ほどの弁護士が所属する法律事務所に勤めていたが、そのうちの半数程度がニューヨークにいた。つまり、僕がかつて働いていた事務所のニューヨーク・オフィスだけでもLowenstein全体の規模より大きいのだ。

【Lowensteinとニューヨーク大手事務所に関係するある経験談】

僕は法務書記の仕事をしていた1年間、Lowensteinが関与していた案件を複数見てきたが、その中でも特に印象に残っている案件が一つある。

それは、億万長者の実業家が、元妻の数百億円の遺産を巡って、同じく億万長者である元義理の父親と兄弟を訴えるという米国ならではの訴訟だった。

この実業家が雇った代理人は、全国的知名度があると言えるほどの屈指のニューヨーク大手法律事務所。訴訟はニュージャージー州の裁判所で提訴されたため、ニュージャージー州で代理する権限が必要だった。通常こういった場合、州外の法律事務所は本案件に限ってニュージャージー州でも代理人を務めてよいことを裁判所に承諾してもらうのだが、さすが億万長者が起こした訴訟である。この案件では個別にLowensteinも起用された。

ここで注目したいのは、ニュージャージー州で提訴された訴訟で、ニュージャージー州で有数の法律事務所であるLowensteinが起用されたにもかかわらず、ニューヨークの大手事務所も起用されたという事実である。実業家からすると、本件はLowensteinではなくニューヨークの大手事務所に任せたい、という趣があったのだろう。

いずれにせよ、原告側はすごい弁護士団になった。あまりの豪勢さに、彼らが初めて法廷に現れた時、僕はその日の出頭だけで弁護士費がいくらになるのか試算してしまった。はるばるニューヨークからやってきたのは弁護士2名で、1時間あたりの1人の単価は10万円超。Lowensteinからも弁護士2名が現れて、こちらの1時間あたりの1人の 単価は5万円超。ハイヤー代も移動時間も待ち時間もすべてクライアントに請求されるので、ざっくり計算して100万円はかかっただろう。

この弁護士団はその費用に見合った仕事をしたのだが、その仕事の内容は「何の発言もしない」だった。

これの意味を理解するには、ちょっとした背景の説明が必要だ。

日本の裁判官は司法試験に合格した後比較的すぐにキャリアを始めるが、米国では長年弁護士や検事として勤務してきた「ご褒美」として裁判官に任命されることが多い。組織に刃向かうと地方に飛ばされる日本の裁判官と違って、米国の裁判官は一旦任命されると基本的にその職に居座れる。日本の裁判官のイメージが「官僚」なら、米国の裁判官は「小さな国の王様」である。

そして、どんなに小さな国でも、王様は自分の支配が及ぶ国内ならやりたい放題だ。

僕の上司は尊敬に値する裁判官であったが、同時に典型的な独裁者でもあった。普段から弁護士に対して、「私は忙しいんだから、君の訴訟はさっさと和解してほしい。私による審査にこだわるなら、祭日ぐらいしか都合がつかない」みたいなことを平気で言う人で、これがハッタリではないことが何より恐ろしかった。実際、ある訴訟が和解に至らなかった際には、祭日なのに開廷して僕も休日出勤を強いられた。

この裁判官の持論の一つに、裁判所に対する主張はすべて事前に書面にてなされるべき、というものがあった。これには、口頭で新しい主張を展開することは相手方に反論の余地を与えない不意打ちで不公平だ、というそれなりの妥当性があったのだが、この持論の延長線上には、法廷で弁護士が口頭弁論することは一切不要、という論理的な帰結が待っている。よって、この裁判官は弁護士がダラダラ話すことを何よりも嫌った。

億万長者同士の遺産争いで初の口頭弁論が行われた時、被告側の弁護士団は、裁判官が仏頂面でいるのに気付かなかったのか気にしなかったのか、永遠と話し続けた。彼らがやっと話し終え、イライラした裁判官が原告側の弁護士に向かって「何か発言したいことある?」と聞いたところ、4人全員が「書面に補足する事項はありません」と回答したのだ。

この対応は、裁判官を実に感激させた。自室に戻ってすぐ、「あの事務所はさすがだね。私のことをよく調べてる」と満面の笑みで褒めていた。

ここまで裁判官を満足させるにあたって重要な役割を果たしたのが、Lowensteinだったはずなのだ。所詮はニュージャージー州の裁判官の一人に過ぎなかった彼の個性を知っている弁護士など、ニューヨークにはいなかっただろう。しかし、Lowensteinなら、この王様の性格を重々承知しており、ニューヨークの大手事務所に「この裁判官の前では、いくら話したくても我慢するように」と入れ知恵したに違いない。

たったそんなこと、と思うかもしれないが、裁判官の個性を知り尽くした上でそれに合致した対応をするのが米国の一流法律事務所なのである。

小室圭は、そんな一流の対応ができる法律事務所に就職したと言える。

今回は小室圭の就職先であるLowenstein Sandler LLPについて自分の経験を元に解説したので、次回は当事務所のサイトに掲載されている彼のプロフィールを(つい最近まで類似したプロフィールが公開されていた者として)読み解いていきたい

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