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佐久沼とは本当に無駄の塊のような男である。こんな人間の会話に新卒君をもう1秒たりとも付き合わせてはならないと思ったら、佐久沼がそれを見越したように、「ま、飛行機と娯楽の話はもういいよ。そんなことより、最近、武者震いがした話をしてあげるよ」と機関銃のように話し始めた。
こうして始まったのは、レヌもまさゆも何度も聞かせられたことがある、近所のコンビニのツダくんの話である。ポイントカードの読取機をめぐったバトルなどあまりにくだらなく、30秒でも話に付き合うだけで時間の無駄なのだが、レヌが新卒君の方に目をやると、なんと興味津々に話を聞いてるではないか。このままでは、ツダくんの話にワタナベくんが登場して、佐久沼が無意味な勝利宣言をするまで続いてしまう。
「ちょっとやばいことになってます」
そう言って左飛道(さひみち)レヌに相談してきた井馬(いま)まさゆは、レヌがこれまで見たことがないほどの深刻な表情をしている。「まさか」と思ったら、まさゆの次の一言がそれを確信に変えた。
「あの人が。。。」
まさゆが誰の話をしているのか、聞くまでもない。
新年度が始まったばかりなんだから数日くらいは大人しくしててよ、とレヌが舌打ちしたところで、まさゆが追い打ちをかける。
「新卒君、あの人と意気投合しちゃってます」と、まさゆはさもこの世の中で最も恐ろしいものを見てしまったような口調で言う。
もっとも、複数あるエンジンがすべて同時に停止する可能性は極めて低く、そうなったとしても原因はエンジン不具合でないことが多い。多数の鳥が両エンジンに吸い込まれた2009年のUSエアウェイズ1549便不時着水事故、キログラムとポンドを間違えて燃料が足らなくなった1983年のエア・カナダ143便滑空事故、火山灰がエンジン4基に吸い込まれた1982年のブリティッシュ・エアウェイズ9便エンジン故障事故などが過去にあったが、今回は状況からしてそういった珍しい事象が起こったようには見えなかった。
とても不謹慎なことではあるが、最近の僕の関心はもっぱらエア・インディア171便墜落事故にある。どうもこの事故は、史上最も有名な事故の一つになりそうな予感がするのだ。
飛行機事故にも様々あり、「またこれか」といったものもあれば、「これは珍しい」といったものもある。2024年1月2日に羽田空港で起こったような滑走路衝突は10年に1度くらいの頻度で起こる事故なので、実は前者に当たる。
他方、先日公表された報告書によると、今回の事故はエンジン燃料制御スイッチが切れていたことが原因。飛行機事故検証マニアである僕でさえ「エンジン燃料制御スイッチ」というものを聞いたことがなかったので、これは大変珍しい「前代未聞の事故」となりそうだ。
「飛行機事故検証マニア」として、羽田の滑走路衝突事故に関して思うことを書いてみることにした。なお、これを機会に、以前書いた「航空事故を生き延びるための三つの秘訣」にもぜひ目を通していただきたい。
この事故については、多くの人が「なぜ起こったのか」という点に最も関心を持っている。事故の原因については過去の類似した事故が参考になると思えるので、過去にあった主な滑走路衝突事故と原因を最後にまとめてみた。
本文では、あえて他ではあまり強調されていない次の2点について語りたいと思う。
- この事故では、旅客機の方で1人も死者が出なかったという「成功」があったこと
- 今後の防止策として謳われている自動化は、有力な手段だが限界があること
つい最近僕に会ったばかりのAさんが、長年の付き合いから僕を知り尽くしているBさんに対して、こんな質問をしたらしい。
「ジョーさんって、いったい何をしたいんでしょうか」
どうやら、将棋だの、政局だの、飛行機事故だの、映画評論だの、二千円札だの、コンビニでバイトしてるツダくんだの、何の関係性もない話に何時間も付き合わされたAさんは、これら話題のすべてがどう生産的な人生に繋がるのか、疑問に思ったらしい。
---そんなことしかないんですか。じゃあ、なんか取り柄はあるんですか?
ジョー うん、僕は金の亡者だよ。
---「取り柄」の意味、分かってるんですか?
ジョー うーん、国語は苦手なんだよね。そのせいで中学受験に失敗した。
以前からしつこく「俺をインタビューしろ」と言ってきてるジョー。うざいのでとにかく黙らせるために形式的なインタビューを行ったところ、どうせましな話は聞けないだろうと諦めていたら、恐れてた以上に得るものがなかった。
---本日のインタビューはさっさと終わらしましょう。
僕はいくらでも時間があるから、そんなに気を使わなくてもいいよ。
--そっちが良くてもこっちがイヤなんです。で、なんでそんなにインタビューをしてもらうことに拘るんですか?
それはさー、僕の夢って有名人になることなんだけど、インタビューを受けるってことは有名人になれた証じゃん。
当時の僕は、まさか自分もフライトシミュレーターにハマるとは夢にも思っておらず、そんな彼に冷ややかな目を向けていた。ただ、唯一興味を示したのが、彼に見せてもらった香港の旧啓徳空港での着陸の動画だ。険しい山々に囲まれ、都市のど真ん中にある空港で、45°角度で着陸する飛行機の映像は、飛行機オタクでなくても目を惹かれる。
「飛行機事故検証」というだいぶ不謹慎な趣味がある僕は、ユナイテッド航空のエンジン破裂事故みたいなことが起こると、血が騒ぐ。
そして後悔の念に駆られる。昔、ちゃんと科学を勉強していればよかった、と。
というのも、僕は極端なほどの理科オンチなのである。