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佐久沼とは本当に無駄の塊のような男である。こんな人間の会話に新卒君をもう1秒たりとも付き合わせてはならないと思ったら、佐久沼がそれを見越したように、「ま、飛行機と娯楽の話はもういいよ。そんなことより、最近、武者震いがした話をしてあげるよ」と機関銃のように話し始めた。
こうして始まったのは、レヌもまさゆも何度も聞かせられたことがある、近所のコンビニのツダくんの話である。ポイントカードの読取機をめぐったバトルなどあまりにくだらなく、30秒でも話に付き合うだけで時間の無駄なのだが、レヌが新卒君の方に目をやると、なんと興味津々に話を聞いてるではないか。このままでは、ツダくんの話にワタナベくんが登場して、佐久沼が無意味な勝利宣言をするまで続いてしまう。
「ちょっとやばいことになってます」
そう言って左飛道(さひみち)レヌに相談してきた井馬(いま)まさゆは、レヌがこれまで見たことがないほどの深刻な表情をしている。「まさか」と思ったら、まさゆの次の一言がそれを確信に変えた。
「あの人が。。。」
まさゆが誰の話をしているのか、聞くまでもない。
新年度が始まったばかりなんだから数日くらいは大人しくしててよ、とレヌが舌打ちしたところで、まさゆが追い打ちをかける。
「新卒君、あの人と意気投合しちゃってます」と、まさゆはさもこの世の中で最も恐ろしいものを見てしまったような口調で言う。
WBCはメジャーリーグが主催者だ。サッカーワールドカップやオリンピックは、国際サッカー連盟(FIFA)や国際オリンピック委員会(IOC)といった国際的な組織が主催していることを踏まえると、所詮は米国のスポーツリーグに過ぎないメジャーリーグが主催しているWBCは異質である。
侍ジャパンがワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準々決勝で敗退してしまった。日本全国が盛り上がっていたのに、とても残念である。
僕がWBCについて思うのは、こんな取り組みを20年で軌道に乗せるなんて、さすがスポーツビジネスに長けてる米国だな、ということだ。
ファンとしては、何より自分が応援してるチームに勝って欲しい。チームの存在意義が「親会社の売り上げを伸ばすこと」なんて、たまったものではないと思う。スポーツとは感動の世界になくてはならず、企業の業績というドライな世界にあってはならない。
そういう意味で理想なのは、ファンの1人がオーナーになることだ。
この前、日本ハムの人と会食してたら、ふと日本ハムファイターズがクライマックスシリーズ(CS)のファイナルで敗退した話になった。
ご祝儀ムードでハムの売り上げが伸びることを期待できなくなったと彼らが嘆くのを聞きながら、僕は「なるほど、企業がスポーツチームのオーナーだとこういう発想になるんだ」と興味深くなった。
「スポーツはビジネス」が持論である僕は、スポーツビジネスを成り立たせるために不可欠であるファン層について考えることが多い。
たとえば、ニューヨーク市付近をホーム拠点としている2つのアメストチーム。ニューヨーク・ジャイアンツとニューヨーク・ジェッツでは過去の功績が大きく異なり、結果、ファンの体験にも雲泥の差がある。
もっとも、1つの球団として放映権の収入を増やすとしてもできることに限界がある。だが、ブレーブス(約6割)もファイターズ(約7割)も大半の収入をチケット代やスポンサー料といったスタジアムに来てくれるファンから得ており、ここに球団の力で改善できる余地を見出せそうだ。
そこで、チケット・スポンサー料・飲食からの収入に焦点をあててみる。このカテゴリーのブレーブスの売上(約480億円)はファイターズ(約175億円)の2.7倍。この売上はホームスタジアムのキャパ(ブレーブスは4.1万人、ファイターズは3.5万人)に影響を受けると考えられるので、売上を試合数とスタジアムの大きさで調整すると、ブレーブスはスタジアムに訪れるファン1人1試合当たりファイターズの2倍以上の売上を上げていることになる。
スポーツとお金の関係に関心がある僕は、米国と日本のプロスポーツの世界を比べて不思議に思うことがある。なぜ日本ではスポーツ選手の年棒が米国より著しく低いのだろう、と。
たとえば、野球。2025年シーズンのメジャーリーグ選手の最高年棒は大谷翔平の7000万ドル(約100億円)で、プロ野球選手の最高年棒はライデル・マルティネスの12億円だ。年棒の平均を見ても、メジャーリーグは460万ドル(約6.5億円)でプロ野球は5000万円未満である。
球団が利息なしの後払い契約を結ぶメリットは明確である。では、大谷にとってそのような契約を結ぶメリットはなんだったのかというと、節税対策が考えられる。
連邦制である米国では各州が自由に課税することができるので、所得税に限らず、消費税や固定資産税、法人税や住民税といったありとあらゆる税金の税率が州ごとに異なる。
先週、メジャーリーグの2025年シーズンが日本で開幕した。開幕戦は大谷翔平、山本由伸・佐々木朗希の日本人トリオが所属するロサンゼルス・ドジャースとシカゴ・カブスの試合だったことで日本でも盛り上がったが、僕が関心を持ったのは2023年に大谷翔平が結んだ契約だった。
実はこの契約、お金の仕組みの面でとても勉強になる内容なのだ。
6年ぶりの米国生活。特に喜ばしいのは、スポーツがまた身近な存在になったことである。
米国はスポーツの国だ。
職場の同僚との雑談。タクシーの運ちゃんとの世間話。パーティでの会話のきっかけ。どんな場面でも男女共にスポーツの話で盛り上がる。
ケーブルテレビにはスポーツ専門のチャンネルが複数あり、アメフト試合の直前には次の試合で注目すべき選手を分析する番組が、直後には先の試合で勝負を決めたプレイを分析する番組が1時間ずつ組まれる。
インターネットではメジャースポーツごとに何人もの記者がニュースを追い、終日特ダネが速報される。大谷がエンジェルスに入団することを、僕は日本の新聞が報道する1時間半前に米国のスポーツサイトを通じて知った。
常にスポーツに囲まれるこの環境に戻って改めて思うのは、日本は一般的にスポーツ好きの国ではないな、ということである。