最新の「海猿」は単純さがいい

8.5/10

くさい台詞を吐く主人公中心のありふれた感動物語が大金をつぎ込んだ大規模なアクションを通じて語られる。そんな何にも考えないで楽しめる単純な映画を、特に夏には観たくなる。「海猿」シリーズの4作目となる「BRAVE HEARTS 海猿」は、2作目と同様に、そんな欲求を満たしてくれる映画である。

構想はいたって簡単。海上保安官である仙崎大輔 (伊藤英明)と以前からバディーである吉岡哲也(佐藤隆太)は、通常の海上保安官が出動できない現場を任せられる特殊救難隊に所属する。彼らの直属上司は嶋一彦 (伊原剛志)。命を救うことを何より優先し、どんな場合でも奇跡を信じて諦めない心を持っている仙崎は、現場では冷静な判断力が最も重要であると考える嶋とは意見が合わない。そんなある日、吉岡がプロポーズして断られた元彼女である矢部美香(仲里依紗)がキャビンアシスタントとして乗っている羽田行きの飛行機がエンジンと機体に大幅なダメージを受けるという危機に晒されてしまう。海上保安庁警備救難部救難課長である下川嵓(時任三郎)が危機管理のため羽田空港に駆けつけるが、状況を鑑みて飛行機の羽田への着陸は不可能と判断。乗客と従業員全員を救う方法は東京湾への着水方法しかないと決断する。薄暗くなる中での着水、そして着水後の即効の救出には海上保安が欠かせなくなり、仙崎、嶋、そして矢部が飛行機に乗っていることを知っている吉岡が出動する。

「海猿」は単純な映画だが、このような映画の製作は簡単なようで意外と難しい。単純な映画とはいえども構想は肝心で、関心を削ぐようなストーリーはいくらアクションシーンが良くても、観客は冷めてしまう。「海猿」はそこら辺のコツをしっかりつかんでいる。この映画の空と海での危機を中心とした構想はスケールが大きい。飛行機に不具合が起こった時点から映画はテンポが上がり、ハラハラする場面が中断されることなく続く。海で活動する海上保安官の話なのに空を飛ぶ飛行機を中心とする設定は如何なものかと観る前は半信半疑だったのだが、空と海の場面がバランスよく組み合わせられており、全く違和感を感じない。前作「THE LAST MESSAGE 海猿」の石油プラットフォームでの設定は今ひとつしっくりこなかったのだが、「BRAVE HEARTS 海猿」では空という海とは全く関係の無い場面を導入したことで反対に成果を出している。

ドラマチックな映画の構想では偶然と奇跡が相次ぐ場合が多いが、「海猿」も例外ではない。不時着せざるを得ない飛行機に偶然吉岡の元彼女が乗っている。その吉岡が最終場面では絶体絶命の状況に至ったにもかかわらず奇跡的に命が助かる。なんでもありなのか、と思わせるほど非現実的なストーリーだが、「海猿」のような青臭い映画は徹底して青臭いほうがいい。ありえないことが続いて奇跡が起ることにより観客が感動する。「海猿」では極端にドラマチックな場面を役者が誠実にそして自然に演じることにより、青臭さで感動する。

こういう映画では登場人物の展開は余り期待できないものだが、たとえワンパターンな主人公でも何らかの魅力を感じさせる必要がある。そういう言う意味では仙崎は十分な主人公。ひたすら人間の命を救うことへの愛着に人間味を感じる。またシリーズ3作目の共演ということもあり仙崎と吉岡の関係も「海猿」の大きな魅力的なところである。でもそれ以上登場人物を展開させることにこの映画は興味を示さないことに多少の物足らなさはある。対照的な仙崎と嶋の関係には奥が深い展開が期待できたのに、余りにも簡単に分かり合えてしまったのでは設定が十分に生かし切れていない。

とは言いつつも、結局は構想も登場人物も「海猿」の目玉である、抜群な特殊効果の背景にしかすぎない。映画のはじめにコンテナを乗せた貨物船が沈没する場面。ヘリコプターで救出にあたっている特殊救難隊が上空を飛ぶ中、貨物船が傾き、コンテナが滑り落ちて、荒れた海に呑まれてゆくのは、実際に貨物船を沈めて撮ったのではないかと思わせるほどリアルであった。

また、飛行機に関わるシーンも手を抜いていない。エンジンがトラブルを起こして発火し、折り外れた後、機体にあたり穴をあけてしまう場面はたったの数秒間なのだが、現実的だった。でも何よりも素晴らしかったのは水着のシーン。ひとつのエンジンを失い、残りのエンジンには焦げ跡があり、機体の後部には損傷がある飛行機が東京湾に救命の為待機している数々の船の真上を飛び、機体が崩壊されながら着水するシーンは、ハリウッドの映画でも最近体験していないほどの迫力があった。これだから映画は大きなスクリーンで音質が最高の映画館で観なければ意味が無い、と思わせるシーンである。所々BGMの音が大きすぎる場面があるが、場違いのBGMでは無いし、スケールが大きい、が取り柄の映画では、気になる程度の問題だ。

「海猿」は、猛暑を数時間忘れる為に十分な楽しさを経験させてくれる映画である。

 
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