時計も食事も身の程をわきまえたい(前編)

夏にハワイ旅行に行った最後の晩、とてもいいレストランで食事をした。どれだけ豪華だったかは、ドリンクメニューを見れば一目瞭然だった。

カクテルが2000円。グラスのワインが4000円。通常ならカクテルを1杯飲んでからワインを2杯ほど嗜むのだが、この時ばかりはジントニック1杯で我慢し、食事も一番安いコースに追加オーダーなし、という大食の僕らしかねぬ行為に出ざるを得なかった。

身の丈に合わないレストランに入ってしまったことをしみじみ反省していたら、数年前に起こった銀座の時計屋でのできことが蘇ってきた。

それは、ウブロと呼ばれるブランドのブティック店でのこと。僕はそこで腕時計を1本だけ購入したことがあり、それ以降、僕はその時計を着けて来店しては店員の目に付くよう見せびらかし、まったく購入する気がないのに僕の相手をさせていた。

そんな迷惑行為に出ていたある日、ショーケースにあるめちゃかっこいい時計が目に入ったので、試着させてもらった。さりげなく値札を見ると、9000万円である。道理でかっこいいわけだ。

1億円弱の価格に相当する精密な作りに見惚れながらふと思ったのは、オーバーホールはいくらなのだろう、という素朴な疑問であった。

オーバーホールとは、時計のムーブメント(機械部分)を分解して、部品の一つ一つを洗浄し、状態を点検した上で、不良個所があれば修理、パーツが摩耗や劣化をしていれば交換し、再組み立てする作業のことを指す。

良い時計は数年に一度オーバーホールすることが推奨されるが、実はこのコストが馬鹿にならない。オメガのような「低」クラスの高級時計でも数万円かかる。

購入するだけでも大変なのだから、更にメンテにどれくらいかかるのかは自然の問いのように思えた。よって店員に「この時計のオーバーホールはいくらくらいになるのでしょうか」とさりげなく聞いてみたら、「こういう時計を購入される方は、そういうことはあまり気にされないようです」といった”回答”が戻ってきた。

なんと、オブラートに包まれながらも、「あなたにはこの時計は買えません。身の程知らずですね」と言われてしまった。僕の冷やかしにそこまで鋭く反撃されては、僕はそそくさ店から逃げ出す以外なかった。

後編に続く)

 
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