犠牲にすべき腕時計を、僕はある悪夢から学んだ(後編)

前編から続く)

そして考えたのが、どうやったら僕の腕時計を救えるか、である。時間があまりない中、将棋では全く活かせない頭がフル回転した。

通常の人は腕時計を一本しか着けていない。いつも腕時計を2本着けてることから変人扱いされることを経験しているため、これは間違いない。

となると、ハイジャッカーもまさか僕から腕時計を2本も回収できるとは考えていないはず。ということは、急いで隠せば1本は救えることになる。

この結論を出した頃には、ハイジャッカーは既に目と鼻の先にいた。これより近づかれては、腕時計を外して隠すところが見られてしまう恐れがある。どっちの時計を犠牲にするか即決する必要があった。

その時着けていたのは、右腕にウブロのエアロフュージョン、左腕にバシェロン・コンスタンタンのオーバーシーズデュアルタイム

ウブロこそが、僕が腕時計にハマるきっかけとなり、一週間も買おうか買うまいかと悩んだ挙句、一生物だからと割り切って購入し、それ以降毎日欠かさずに着けている時計である。救うべき時計は明確と思われ、すぐにウブロを外し靴の中に隠した。

30秒後にハイジャッカーにバシェロンを渡すと、彼は何の疑いもなしに後ろに移動していった。無事ウブロを救えたのだ。

ところが次の瞬間、「あっ」と気づいてしまった。

愛用しているとはいえ、ウブロのエアロフュージョンはまだ生産中であり、保険までかけているので、失っても再度購入すれば良いだけの話であった。

他方で、ハイジャッカーに渡したバシェロンオーバーシーズデュアルタイムの青文字版は、世界に300しかない限定品。一昨年モデルチェンジが行われ、もう買おうにも買えないのである。

「しまった、間違えた」と焦ったところで、目が覚めた。

僕はこうして汗びっしょりの悪夢を体験したからこそ、万一ウブロかバシェロンのどちらかを犠牲にしなければならない事態に直面した際に、正しい判断ができるようになったのだ。

しかし最近また、ある出来事により犠牲にすべき時計を正しく選べる自信がなくなってしまった。

昨年末、限定品のブライトリングナビタイマーを新たに購入したのだ。

 
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