大谷翔平の通訳だった水原一平の違法スポーツ賭博問題について、アメリカの法律とスポーツ選手の詐欺被害の観点で解説

大谷翔平の通訳、水原一平の驚愕的な違法スポーツ賭博問題。アメリカの法律とスポーツ選手の詐欺被害について一定の知識があるので、解説してみようと思う。

【事実確認】

これまでの報道を踏まえると、次のことは事実と考えてよさそうである。

  • 水原一平は違法なスポーツ賭博を運営していたマシュー・ボーヤー(Mathew Bowyer)に450万ドル(約6.8億円)もの借金があった
  • 少なくとも2回、「Shohei Otani」の口座からボーヤーの関係者に50万ドル(約7500万円)が電子送金された

事実として分かっているのはこれくらいである。

【水原が語った二つのストーリー】

この事について、水原はアメリカのスポーツ局ESPNに対して2つのまったく異なる説明をしている

100万ドルの送金に関してESPNが最初に大谷側に取材した時、雇われたばかりの大谷のスポークスマンは、送金は大谷が水原の借金を肩代わりしたものであると説明した。

この説明の裏を取るためESPNが大谷側に水原へのインタビューを申し入れると、水原は90分間の電話インタービューで次の説明をする。

  • 自分はスポーツ賭博中毒である
  • ボーヤーが違法な賭博業者だとは知らなかった
  • ボーヤーに対して少なくとも450万ドルの借金を負ってしまった
  • 大谷に相談してこの借金を肩代わりしてくれないかと頼んだところ、応じてくれた
  • 大谷は、水原に送金すると賭博で使ってしまう恐れがあるとの理由で、自分で直接送金した
  • 送金は大谷が自ら口座のアカウントにログインし、水原の指示の下で行った

ESPNがこの説明を基に書かれた記事を公開しようとしていた最中、大谷のスポークスマンから連絡があり、水原の話は嘘で大谷は本件に関与していないので、報道を止めるよう要請。事の重大さを認識したESPNはスポークスマンに対して正式な表明を出すよう要求し、1時間後に弁護代理人(法律事務所)から「大規模な窃盗があった」との表明が公表された。

その後、解雇された水原はESPNとの2度目のインタビューで次の釈明を行う。

  • 1度目のインタビューでは嘘をついていた
  • 大谷は水原の借金について把握しておらず、送金にも関与していない

大きく異なるこの2つのストーリー。大谷が肩代わりしていたのか、それとも水原が窃盗したのかで、大谷の法的責任は大きく変わってくる。

【大谷が肩代わりしていた場合】

報道されている通り、水原が住んでいるカリフォルニア州ではスポーツ賭博は認められていないが、いずれにせよ、水原が行っていた賭博はどの州でも違法であった可能性が高い。

なぜなら、水原は”ツケ”で賭博をやっていたからである。どの州もオンライン賭博における信用取引を認めていないため、賭博で大きな借金を抱えたという話をアメリカで聞くと、それはだいたい違法賭博なのである。

そしてアメリカの当局は、こういった違法賭博の摘発に積極的に動く。理由は、違法賭博を運営している業者の裏には十中八九マフィアがいて、違法賭博は格好のマネーロンダリングの手法になるだけでなく、恫喝や脅迫のネタになるからだ。

実際、近年のアメリカで最大のスポーツ賭博スキャンダルだったティム・ドナヒーの八百長問題では、ドナヒーが自分で審判しているプロバスケの試合に自分自身が賭けていることをマフィアが嗅ぎ付け、八百長するようドナヒーを脅迫していた。

もし「大谷肩代わりストーリー」が真実であった場合、大谷は法的責任を問われる可能性がある。違法賭博自体は運営業者であるボーヤーが責任を負うことになるが、もし大谷が違法賭博と知りながら水原の借金を返済したとなると、彼が行なった電子送金は違法賭博に加担した行為と見なされかねない。

「友人を助けただけなのに」と思うかもしれないが、違法賭博=マフィアと考えているアメリカの法律の感覚では、違法賭博の借金の肩代わりは日本で言う反社会勢力との取引と同等と考える必要がある。

これは極めて深刻だ。

【水原が窃盗していた場合】

大谷側が主張しているとおり水原が450万ドルを窃盗して送金したのであれば、大谷は詐欺の被害者であり法的責任を問われることはない。

このストーリーを否定する報道は今のところESPNを含めどのマスコミからも出ていない。だが、次のような理由から、このストーリーの信憑性に疑問が投げかけられている。

  • 年収50万ドル以下だった水原に対し、裏に金持ちのバッカーがいると思わない限り、ボーヤーが450万ドルの信用取引を認めたとは考えにくい
  • 所詮は通訳である水原が大谷の銀行口座にアクセスできたことなどあり得るのか
  • 口座から450万ドルも消えていることを大谷が気付かなかったとは思えない
  • 50万ドルもの送金には、二要素認証なり金融機関からの連絡なりで大谷への本人確認が行われたはず

要は、「大谷が知らずに450万ドルも窃盗できたのか」という疑問なのだが、悲しいことに、似たような詐欺事件は多くの事例がある。

最近の例は、ペギー・アン・フルフォード(Peggy Ann Fulford)と呼ばれる女性が、プロバスケ選手だったデニス・ロッドマンやプロアメフト選手だったリッキー・ウィリアムズから600万ドル窃盗した事件だろう。

この記事で生々しく説明されているとおり、フルフォードはこれら選手のお金管理を任せられており、特にウィリアムズは、選手として稼いだ500万ドルの給料の振込先として彼女が支配していた銀行口座を指定していた。

どうしてフルフォードをそこまで信用できたのかは、記事に書かれているウィリアムズ夫婦と彼女の親密さが語っている。

  • ウィリアムズ夫婦の間に第一子が生まれた後、母親と子供を病院から家に送ったのはフルフォードだった
  • ウィリアムズ家族とフルフォードは、一緒にラスベガス旅行に行くような仲だった
  • 夫が練習で不在だった時、フルフォードが奥さんの買い物に付き添っていた
  • 二人の結婚式のカメラマンを手配したのはフルフォードで、披露宴は彼女の家で行われた

いつも一緒にいた大谷と水原は、これまで度々「仕事関係以上の深い絆で結ばれてる相棒」といった微笑ましい視点で報道されてきたが、翻すとこれは、水原が大谷の銀行口座にアクセスしたり、スマホを借りて送金の二要素認証をしたり、金融機関に対して大谷になりすますことができた仲だとも言える。

「野球で忙しくて、お金の管理どころではない」大谷が、水原を全面的に信用してしまったことは十分に考えられる。

今のアメリカでは、「窃盗ストーリー」は、水原が最初のインタビューで大谷の関与を語った後に弁護士が”訂正”し、大谷にとって都合のいい話に”改竄”されたものだとの見方がもっぱらだ。万が一にも大谷側が水原に責任をなすりつけようとしていることがあれば、それは実質犯罪のでっち上げであり、純粋な「肩代わりストーリー」とは比べものにならないほど大谷の法的責任は重くなる。

大谷が被害者であるというストーリーが真実であるか否かは、遠くない日に、電子送金の実態の調査と水原の取り調べで判明するだろう。

大谷のためにも、野球のためにも、「窃盗ストーリー」が真実であることを祈るばかりだ。

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