僕はコンビニの元バイトのツダくんに勝利宣言する(後編)

前編から続く)

こうして僕とツダくんは、ほとんど顔を合わせない関係になってしまった。

そんな休戦状態が何ヶ月も続いていたある日、コンビニの前を通ったら、改装工事のために閉店していただけでなく、こんな張り紙まで貼られていた。

バイト募集とは!これは経営者が変わったのだろうと推測し、僕は良きライバルであったツダくんとの思い出にふけるだけでなく、彼の運命まで心配した。

そして開店日。ワクワクドキドキしながら店に入ったら、何週間も工事をしていた割には内装が大して変わっていなかったものの、店員の顔と態度はガラッと変わっており、ツダくんの姿はない。

店員たちは、入った瞬間「いらっしゃいませ」と大きな声で歓迎し、会計が終わると「ありがとうございました」と丁寧に頭を下げ、出る時には「またお越しください」と見送る。どれもお手本のようなコンビニ対応だったが、どれひとつとして、僕はツダくんにやってもらえた覚えがない。問題のポイントカードの読み取りも、ツダくんがいなくなってプレッシャーから解放されたにもかかわらず失敗してしまったが、新しい店員は僕を責めるようなことはせず、優しく「もう少しゆっくり通して頂けますか」とアドバイスまでしてくれた。ツダくんとはえらい違いだ。

他方で、どうも列で待つ時間が長い。よく観察すると、どの店員もひとつひとつの動きがなんとも非効率だ。どうやら新しい経営者の方針は、優秀さより愛想を優先するものであるようで、優秀だが無愛想なツダくんはお役御免になってしまったようである。

このように僕は、ツダくんが戦場離脱を強いられたことで、彼必勝の状態から逆転勝利を勝ち取ることができた。

現在はアットホームな雰囲気に変わったコンビニ。最近は肉を買った帰りにも寄るようになったのだが、その度に僕は、無駄に待ち時間が長い列に並びながら、打ち負かしたツダくんのことを思い出しては勝利の余韻に浸するのである。

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