Noとしか言えない法務部など不要(後編)

前編から続く)

さらにAさんは、「法務部は法律の専門家なんだから、ビジネスサイドに対して上から目線で接していればいいのだ」という考えの持ち主であった。

これを聞いた僕は、驚くと言うより変に納得してしまった。

というのも、僕の周囲にいる営業とかエンジニアとかコンサルといった現場の人たちは、自社の法務部について「彼らには相談に行かない」という捨て台詞をしょっちゅう口にしているからである。事業を回していかなければならないビジネスサイドとしては、プライドだけはムダに高い非協力的な法務部など、相談に行くだけで不愉快極まりなく、時間の無駄であろう。

しかしAさんには自分がビジネスサイドから相手にされていないという自覚がまったくない様子であった。僕が「そんな姿勢で誰に対して何を貢献しているんですか」と聞いたら、「経営陣を守っています」とぬけぬけと回答していた。生産的な対応をするつもりが全然ないのに、結果を出すことが求められる経営陣から評価されるべきと考えているのはおめでたいとしか言いようがなかった。

Aさんがどこまで一般的な法務部の代表的な存在と言えるか定かではないが、僕が周囲から聞いている話からすると、決して珍しくなさそうである。そんな法務部しかない会社は、いつ一大事が起こっても不思議ではない。

法律の問題というのは恐ろしいもので、日常的には課題でなくても、ある日突然発覚するといっぺんに会社が傾く事態に発展しかねない。Aさんの「会社を守るべき」という姿勢は正しいが、事業を進めることに専念しているビジネスサイドと共にYesの回答を常に模索しているからこそ、本当にNoと言う必要がある場面でもちゃんと相談を持ちかけられて、Noという判断が尊重されるのである。

賭けてもいい、不祥事を繰り返す会社の法務部はAさんのような人で溢れているだろう。Noとしか言えない法務部など、不要どころか危険な存在である。

 

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