なぜトランプ?そして米国民主主義に対する信頼

(English version available)

先週、ドナルド・トランプ氏が米国大統領に選ばれた。

トランプ氏は、「日本は核武装すべきだ」とか、「メキシコ人はレイプ犯だ」とか、「イスラム教徒の移住は全面的に禁止すべきだ」などの問題発言を、大統領選を通して繰り返してきた。

そのような人物がなぜ大統領に選ばれるのか、という問いに対する簡単な答えはない。ただ、ひとつ言えるのは、トランプ氏の当選は米国という国の複雑さの表れであるということ。

この四半世紀、米国人が選んだ大統領は、振り子のように振れてきた。

1992年に当選したビル・クリントン氏は史上大統領の中でもIQが最も高いと言われている。そのクリントンを継いだのは浅はかと思われていたジョージ・W・ブッシュで、ブッシュ氏を継いだのは、史上初の黒人大統領として歴史を変えたバ ラク・オバマ氏。差別的暴言を繰り返すトランプ氏は、そのオバマ氏の後任となる。

これら大統領のうち、日本人にとってブッシュ氏は理解し難く、トランプ氏は想像を絶するだろうと思う。

そのような反応は、何も日本人に限られたことではない。多くの米国国民も、トランプ氏の当選は世の末と考えている。

でも、そう考えている米国人の大半は、政治・経済・学問・マスコミなど、米国社会の全ての分野を支配しているエリートなのだ。

そして、先週の大統領選の結果は、それらエリートに対する白人労働者の反乱である。

白人労働者にとって、この20年間は試練と苦難の連続であった。

グローバル化、特に自由貿易協定の影響により彼らの主な働き口である製造業の雇用は失われ、リーマンショックによりコツコツ貯蓄してきた蓄えはあっけなく消え、無責任な金融政策により夢のマイホームを追われることになった。

彼らは経済的に取り残されただけではない。

白人労働者は、90年代までは民主党支持層の重要な一角を占めていた。それが、近年、民主党がヒスパニックや黒人などのマイノリティ、ミレニアル世代、そして超高学歴層の三つの支持層を重視する政策を打ち出すようになったことにつれ、彼らは徐々に民主党から離れて行った。

そういう意味ではトランプ現象を、共和党が起こしたものと捉えるのは適切ではない。白人労働者にとって民主党が心地よくなくなった後も、富裕層と企業向けの政策が柱となっている共和党に馴染めるはずもなく、この20年間、彼らは政治的にも見放されていた。

それが今年、十何年ぶりかに本格的に応援できる、彼らを代弁してくれるトランプ氏という候補が現れ、彼らはトランプ氏が共和党から出馬していたがために、共和党を応援することとなった。

長年政治的に無視され続けてきた白人労働者層は、共和党を乗っ取り、その後米国を制覇することに成功したのだ。

突然影響力を発揮したトランプ支援者が最も望んだのは、「現状の変化」である。

今回の大統領選を最もよく語っている驚愕的な出口調査の結果がある。それは、「トランプ氏は大統領になる資格を有しているか」という質問に対し、「有している」と答えた有権者がたった37%しかいなかったことだ。

つまり、十数パーセントの有権者が、トランプには大統領になる資格がないと分かっていながらも、トランプに一票を入れたのだ。

これは、「やけくそ票」としか呼びようがない。現状の政治に嫌気がさした白人労働層は、どうにでもなっていいからという気持ちで、とにかくトランプという爆弾をホワイトハウスに送り込むことを選んだのだ。だからこそ、トランプによる様々な暴言があっても、彼らのトランプに対する支持は揺るがなかったのだ。

無責任と言えばそれまでだが、エリートには経済的に置いてかれてしまった人の苦労は理解できない、というのも事実だ。理解してもらえないだけでなく、注目さえもしてもらえなければ、失望と不満は溜まる。元々エリートに対する不信感が根強い米国で、差別的暴言者トランプの勝利という、エリートとしては断じて認められない形で白人労働者の不満が爆発したことは、そうびっくりする結果ではないのかもしれない。

これこそが民主主義なのだ、と思う。世界の大半の国では今でも、長年無視され続けてきた国民の怒りが爆発するときは、刃物と銃が伴う革命と相場が決まっている。米国は健全な民主主義であるからこそ、トランプという者の当選で済んだのだ。

この白人労働者の反乱が起こしたトランプの当選により、この先4年間の米国、ひいては世界の行方を危惧する日本人に伝えたいことがある。

それは、米国という国を信用してほしい、ということだ。

米国は歴史が浅い国だが、民主主義に関しては世界的にも大先輩である。間接的ではあるものの国民が大統領を選挙で選ぶことを18世紀に試み、その後200年以上、途切れることなく4年ごとに大統領選を実施してきた実績がある国が米国だ。

58回行われた米国大統領選のうち、政治の素人が当選したことも何度もあった。そのなかには、国民的英雄で軍人だったアンドリュー・ジャクソンのように、トランプと同じくらい危険な気質を有していると思われる人物もいた。

それにもかかわらず米国の民主主義が繁栄した背景には、性悪説に基づいて創られた国家制度がある。権力者は時には権力を悪用し、民意は時には暴走する、という前提で設けられた安全装置が、今まで米国の民主主義を支えてきた。

私は、大半の日本人と同じく、トランプ氏が大統領選を勝ち抜くとは思ってもいなかった。そしてトランプ大統領は危険とも考える。でも、米国の民主主義が大した傷を負わずに生き残るということを信じて疑わない。

皆さんにも信じていただきたいものだと、強く思う。

 

コメントを残す

Translate »