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僕がWeWorkのことを知ったのは、会社が上場のための書類である目論見書を公開した頃であった。前職時代に目論見書を作成する仕事をしていた僕は、当時物議を醸していたWeWorkの目論見書を読んでみたくなったのだ。
目論見書に目を通してみると、冒頭からおかしな記載がある。創業者であるアダム・ニューマン(Adam Neumann)が「Adam」と表現されているのだ。いくらファーストネームで人を呼ぶのが当たり前の欧米でも、目論見書のような正式な書面では「Mr. Neumann」と表現するのが常識である。
僕は金融危機のニュースを追うのが好きである。銀行の破綻とか大企業の粉飾とかのニュースからは目が離せない。
近年、そんな僕の関心を最も引いたのがWeWorkである。
WeWorkは2023年11月に経営破綻したが、その頃には世間から既に忘れられており、話題になっていたのは4年前に会社が上場しようとして失敗した時である。
WeWorkのIPO失敗ほど、10年間続いたゼロ金利政策の弊害を象徴している出来事はなかった。
グラフの横の軸を見るだけで、予定通りにいかなかったことが一目瞭然である。なにしろ、3月の株主総会の直後に優先株が普通株に転換されるはずだったのに、8月下旬まで優先株が取引されているのだ。
「ローリスク、ハイリターンは詐欺」と確信しているくせに、僕は最近、「リスクがなくて短期で儲かる投資」に手を出してしまった。
投資先は別に怪しい商品ではない。AMCと呼ばれるアメリカの最大手映画館運営会社が発行している上場株である。
破綻寸前の会社の、それも優先株という一般的ではない証券を買うことにしたのは、それなりの理由があった。
さらには、実業家と起業家とのやり取りも、海外版の方がレベルが高いように見えてしまう。
自腹で資金を出す実業家が起業家の事業計画の甘さを容赦なく叱咤するのは「¥マネーの虎」でも海外版でも見どころであるが、海外版では数字に関する詰めが特に厳しい。
2000年代に深夜テレビ番組「¥マネーの虎」として脚光を浴び、2018年から「令和の虎」としてYouTubeで復活している番組が、海外では「Dragon's Den」(イギリス)や「Shark Tank」(アメリカ)として爆発的にヒットしていることをご存知だろうか。
すると定番のように出てくる話が、「粉飾決算」だ。どんな時でも業績が悪い会社は決算を粉飾してでも資金を調達しようとするが、市場が冷え込むと粉飾するインセンティブが高まる。そして、どんな粉飾も基本的には問題を後送りにしているだけなので、下落市場になるとある日突然自転車操業があっけなく崩壊する。
株式市場が長期的な弱気相場に入ったようだ。英語で言ういわゆるBear Marketだ。
これに突入すると、悪循環の始まりだ。
投資家というものは、いったん下落市場に嫌気が差すと、とにかく売却することにしか関心がなくなる。会社の業績がよければ株価は5%の下落、まあまあであれば10%の下落、最悪であれば20%の下落。どんな業績でも株価は上がらず、所詮は下げ幅の違いにしかならない。
僕は投資に関するうまい話はありえないと確信しているので、今の世の中は下げ相場の兆候だと思えて仕方がない。
日常のように、SNSで株で儲けた話が投稿され、YouTubeで投資勧誘の広告が流れる。そして、何より、今まで投資をしたことがない人たちが、僕に投資の相談をしに来る。これはまさに、高校時代、株式市場大暴落の直前に、食堂のおばちゃんが僕に株の話を振ってきたことを思い出させる現象だ。
中学時代から株に関心を持って高校時代から実際に投資をしてきている僕は、しょっちゅう、いろんな人から、投資に関する相談を受ける。
そんな時、僕はまずこうアドバイスする。「株は下落する。それも、たまに暴落する」
そして、多くの失敗談を共有する。
僕が最初に自分の金に関する理解に限界があることを悟ったのは、金融機関への投資を諦めたとき。健全な銀行の財務諸表と倒産寸前の銀行の財務諸表の見分けがつかず、僕は理解ができないものには決して手を出さないことを誓った。
僕は、様々な経験を重ねることによって、金について詳しくなっていった。
僕が最初に経済に関心を示したのは、小学生のとき。地元のガソリンスタンドの価格の変動を追って、僕は市場価格という概念に触れた。
僕が最初に株に投資をしたのは、高校2年生のとき。頑張って貯めたお年玉やバイト代を掻き集めて購入した株が9カ月間で2倍になりその半年後に4分の1に暴落して、僕はリターンが高い投資にはリスクが伴うことを学んだ。
昨年、突然「利率が高くていい社債があるんですよ」と形式的には僕の担当者である証券会社の者から電話があった。
今まで何の話もしたことがないのに急になんだと思いながらも、お金の運用に関する話が大好きな僕はとりあえず付き合うことにした。
そこでまずは「どういうリスクがあるんですか」と質問してみた。利率が高いのはリスクが高いから、というのは投資のイロハだ。大して難しい質問をしたつもりはない。
ところが、これに対して営業マンは口を濁すだけで、もっぱら「利率がいいんです」を繰り返すだけであった。