ゼロ金利の弊害、WeWork(後編)

前編から続く)

僕がWeWorkのことを知ったのは、会社が上場のための書類である目論見書を公開した頃であった。前職時代に目論見書を作成する仕事をしていた僕は、当時物議を醸していたWeWorkの目論見書を読んでみたくなったのだ。

目論見書に目を通してみると、冒頭からおかしな記載がある。創業者であるアダム・ニューマン(Adam Neumann)が「Adam」と表現されているのだ。いくらファーストネームで人を呼ぶのが当たり前の欧米でも、目論見書のような正式な書面では「Mr. Neumann」と表現するのが常識である。

さらに驚かされたのは、その「Adam」に関する異常な開示の多くだ。たとえば、

  • 上場後も、WeWorkの株の議決権を支配するのはAdamであった
  • Adamが死去した場合、後任のCEOは妻を含む3人が選び、妻以外の2人がWeWorkの取締役でない場合、妻が代わりの2人を選ぶことになっていた
  • WeWorkは、会社名となった「We」の商標を取得するため、Adamが支配している別会社に$5.9 million(約8億円)を支払っていた
  • WeWorkは、Adam個人又は彼の親族会社から複数の物件を借りていた

WeWorkはまさに、自由奔放な創業者が誰からも監視されずに暴走した顛末であった。

よくこんな状況で上場できると思ったな、と僕は呆れてしまった。常識的に考えて、利益相反や変なガバナンス体制は整理してから上場を目指すべきなのだが、WeWorkも、それに投資したソフトバンクも、WeWork株の買い手を見つけなければならない投資銀行も、長年のゼロ金利世界で感覚が麻痺してしまい、異常さを認識できなくなってしまったのだろう。

WeWorkのドタバタ劇は、陶酔感に陥って無謀な投資をしてしまうのは何も素人の投資家だけではないということを示している。

しかも、WeWorkのIPOを潰し、結果としてゼロ金利がもたらしたスタートアップ業界全般の暴走を止めたのは、素人の投資家も含む一般市場の投資家だったのだ。

 

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