「リスクがなくて短期で儲かる投資」を試して、やはりあり得ないと痛感する(前編)

「ローリスク、ハイリターンは詐欺」と確信しているくせに、僕は最近、「リスクがなくて短期で儲かる投資」に手を出してしまった。

投資先は別に怪しい商品ではない。AMCと呼ばれるアメリカの最大手映画館運営会社が発行している上場株である。

破綻寸前の会社の、それも優先株という一般的ではない証券を買うことにしたのは、それなりの理由があった。

コロナのせいで自社の映画館で閑古鳥が鳴いていたAMCでは、資金調達が最優先事項となっていた。すでに多額の債務を抱えていたことから融資を受けることができず、もはやAMCにできることは新たな株式をガンガン発行することくらいであった。

そして、それを続けていたら、上場会社では聞いたこともないようなことが起こった。会社の定款上発行できる普通株式数の上限に達してしまったのだ。

株主総会を開催しても株主が発行可能株式数を上げてくれる見込みは薄く、困ったAMCが思いついたのが、優先株の発行である。

優先株の発行自体はそれほど珍しいことではない。だが、優先株には、通常、普通株に優先して配当を受け取ったりする「優先的」な権利が付与されるところ、AMCの優先株には基本的に普通株と同じ権利しか与えられず、唯一異なる権利が、株主総会の決議によって優先株1株を普通株1株に転換できることだった。

こうしてAMCは、実質普通株式と変わらない優先株式を2022年8月に1株$7.00弱で発行し、その後も資金調達のためにガンガン発行し続けた。

そして、12月下旬、AMCは臨時株主総会を開催し、優先株を普通株に転換することを決議にかけると発表した。

当時の優先株の株価は$0.68で、普通株の株価は$5.83。優先株主数が普通株主数を圧倒していることから株主総会で転換が承認されることは間違いなく、転換さえすれば優先株は普通株になるので、$5以上あった優先株と普通株の株価の差が縮まるのは経済的に確実だった。

これは典型的な「アービトラージ(arbitrage)」、つまり、同一の価値を持つ商品が違う価格で取引されていて、両者の価格差が縮小することで儲けられる機会である。

2023年1月27日にAMCは、株主総会を3月14日に開催すると発表。2月3日に僕は、「これは損しようがない取引だな」と確信し、大量の優先株を$2.36で購入した。その日の普通株の株価は$5.14で、5週間程度で軽く数十パーセント稼げる目論見だった。

なのに。。。

その後の浮き沈みの激しさは、以下の購入日から売却日までの優先株と普通株の推移を表したグラフが示している。青い線が優先株の株価、赤い線が普通株の株価、そして黒い線が僕の購入価格、つまり損益分岐点だ。この線が、願わくば優先株、でなければ転換後の普通株が維持しなければならない株価である。

後編に続く)

 
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