米国中間選挙を解析!(後編)

前編から続く)

【上院の予想】

注目されている上院の議席を投票終了時間の順に解析していこう。時間はすべて11月9日(水)の日本時間。

リマインドとなるが、共和党が一つでも議席を増やせば過半数を獲得する。以下の予想では、ネバダ州で共和党が民主党から議席を奪い、(後日の決選投票に持ち込まれるであろうジョージア州の結果に関わらず)共和党が僅差で上院の過半数を獲得すると予測している。

① 9時00分〜ジョージア州

現職は2年前の補選で勝利した民主党のラファエル・ウォーナック議員。共和党の候補は、ジョージア大学のアメフト選手としてハイズマン(最優秀選手)賞を受賞したハーシェル・ウォーカー。黒人同士の戦いだ。

ウォーカーは抜群の知名度を誇っているが、スキャンダルが絶えない。政治の素人であり、ドナルド・トランプ前大統領の思想を唱えることで(つまり、”トランピアン”になることで)、予備選で圧勝した。その後、息子を虐待していたとか、元彼女に中絶を迫ったとか、多くの問題が発覚しているが、世論調査によると僅差でウォーカーが追い上げている模様だ。

ジョージア州では、どの候補も過半数を超えない場合は12月に決選投票が行われることになるため、当日決着がつく可能性は低い。最終的にはウォーナックが議席を死守しそうだが、(バイデン大統領の支持率が低く、ジョージア州がもともと共和党寄りであるとはいえ)開票日にウォーカーがウォーナックを上回るようなことがあれば、共和党が全国的に地滑り的な勝利を収める兆候になりそうだ。

② 9時30分〜ノースカロライナ州、オハイオ州

(1)ノースカロライナ州

共和党の現職の引退により、新人同士の戦い。共和党の候補は現職下院議員のテッド・バッド、民主党の候補は元州最高裁判所裁判長のチェリー・ビーズリー。

南部にあるノースカロライナ州はもともと共和党寄りだが、共和党の人気に陰りがあると民主党候補が善戦できる州でもある。しかし、バイデン大統領の支持率が40%前半では民主党候補の勝ち目は薄く、世論調査でもバッドが4-7ポイントでリードしている。そこそこの差をつけて、バッドが議席を守るだろう。

(2)オハイオ州

共和党の現職の引退により、新人同士の戦い。共和党候補はビジネスマンのJ.D.ヴァンス、民主党候補は現職下院議員のティム・ライアン。

オハイオ州は10年前までは共和党と民主党が拮抗していた州であったが、労働者が多いため、特にトランプ当選後は共和党寄りの傾向が加速している。ヴァンスは4年前にトランプを酷評していたにもかかわらず、上院選に出馬した途端トランピアンになったことで注目を集めた。20年前ならライアンが勝利したであろうが、現在は、ヴァンスのような問題候補でも共和党のブランドさえあれば勝利できてしまうのがオハイオ州の現状である。世論調査ではヴァンスが3-5ポイントでリードしているので、ヴァンスが一定の差を付けて勝利を収めることが想定される。もしライアンが接戦に持ち込めたり勝利できたりすれば、共和党の全国的な苦戦が予想される。

③ 10時00分〜フロリダ州、ニューハンプシャー州、ペンシルベニア州

(1)フロリダ州

現職は共和党のマルコ・ルービオ議員。6年前に大統領選に出馬してトランプに敗北したことで政治生命が絶えたと思われたが、上院選に再出馬して当選したことで蘇った。民主党の候補は現職下院議員のヴァル・デニングス。

フロリダ州は共和党と民主党が拮抗している州と言われるが、実際は若干共和党寄りだ。民主党にとって不利な環境だとその現実が鮮明になり、世論調査でもルビオが6-10ポイントでリードしている。ルビオの楽勝だろう。

(2)ニューハンプシャー州

現職は民主党で元知事のマギー・ハッサン議員。共和党は、人気が高いスヌヌ知事を担ぎ出そうとしたものの失敗し、結局、トランピアンの元陸軍准将ドン・ボルダックが予備選を勝ち抜いた。

ニューハンプシャー州は、東北で唯一共和党が存在感を出せる州である。オバマ大統領の人気が低迷していた2010年は共和党が20ポイント以上の差をつけて勝利し、トランプが僅差で大統領選を勝利した6年前はその共和党現職が700票差でハッサンに敗北した。

バイデン大統領の支持率が低い今回は通常なら共和党に有利になるのだが、ボルダックはトランプ風の発言が問題となり、実質、党から見捨てられた。にもかかわらず、世論調査ではこの1〜2週間で差が縮まってきており、一部ではボルダックがリードしている。この勢いでボルダックが勝利できるか微妙だが、もし勝利すれば、民主党は全国的に苦戦するだろう。

(3)ペンシルベニア州

共和党の現職の引退により、新人同士の戦い。共和党候補はテレビ番組の司会者として有名になった医者のメメット・オズ。民主党候補は脳卒中で健康の不安が囁かれる現副知事のジョン・フェターマン。

ペンシルベニア州は民主党寄りと言われるが、労働者が多いため、今後は共和党に傾いていくと考えられる。オズは、ペンシルベニア州に住んでいないとか、中身がないとか、色々と批判に晒されてきたが、トランプの支持を取り付けてなんとか予備選を勝ち抜いた。本選では一流候補であるフェターマン相手に苦戦すると思われたが、世論調査によると、ニューハンプシャー州と同様に差が縮まってきており、一部ではオズがリードしている。通常ならオズは勝てないのだが、民主党に人気がないことで勝利しそうな勢いだ。ニューハンプシャー州のボルダックより勝利の確率は高いと思われる。

④ 11時00分〜アリゾナ州、アイオワ州、ウィスコンシン州

(1)アリゾナ州

現職は民主党のマーク・ケリー議員。共和党候補はビジネスマンのブレイク・マスターズ。

この議席はジョン・マケイン元共和党大統領候補が長年守っていた議席であるが、近年、ヒスパニック系の人口が増加していることに伴い民主党寄りになってきており、2020年には約半世紀ぶりに民主党が両方の上院の議席を独占することになった。世論調査によるとケリーが小差のリードを維持しており、逃げ切りそうである。マスターズは(比較的)”マシ”な共和党の候補なので、この環境で民主党が勝利できるのであれば、今後、アリゾナ州は決定的に民主党に傾くことになるかもしれない。

(2)アイオワ州

現職は約40年上院議員を務めている共和党のチャールス・グラスリー議員。民主党候補は元海軍大佐のマイケル・フランケン。

アイオワ州は近年共和党に傾いていることからグラスリーが負けることは想像できないが、最近の世論調査で差が3ポイントとなっていたので、急に注目されてきている。グラスリーの高齢が問題になっているのかもしれない。

(3)ウィスコンシン州

現職は共和党のロン・ジョンソン議員。民主党候補は現副知事のマンデラ・バーンズ。

ウィスコンシン州は、労働者が多く民主党寄りの州である。現在2期目のジョンソンは初当選の時から問題が絶えないものの、不思議なことに、2回とも小差で勝利できている。世論調査によると今回も2〜6ポイントでリードしている模様なので、前回、前々回と同様に、4ポイントくらいで勝利しそうな感じだ。

⑤ 12時00分〜ネバダ州

現職は民主党のキャセリン・コルテズ・マスト。共和党候補はアダム・ラクサルト。

ラクサルトは、祖父がネバダ州の上院議員、父が隣接しているニューメキシコ州の上院議員を務めたというサラブレッドで、本人は2018年に知事選に出馬し、民主党に追い風が吹いた年だったにもかかわらず4ポイント差で惜敗した。ラクサルトは全国的に珍しい”ましな”共和党候補であり、(あまり認識されていないものの)ネバダ州は近年共和党に傾きつつあることから、この議席は早くから共和党が奪う可能性が高いと言われていた。

世論調査ではラクサルトが2〜4ポイントでリードしているものの、マストがリードしている調査も見られ、思った以上の接戦である。最終的にラクサルトが勝利すると思われるが、もしペンシルベニア州やニューハンプシャー州で民主党が勝利を収めていれば、マストが議席を守ることも十分に考えられる。その場合、共和党はだいぶ苦戦していると言える。

⑥ 13時00分〜ワシントン州

現職は民主党のパティ・ムリー議員。共和党候補は看護師のティファニー・スマイリー。

ワシントン州が民主党の牙城であることは、共和党がマシな候補を立てられなかったことからも窺える。通常なら注目するに値しない戦いだが、世論調査は2-6ポイント差と、思いの外近い。ムリーが敗北するとは思えないが、共和党が全国的に地滑り的勝利を収めていれば、ムリーが僅差で逃げ切るような結果になるかもしれない。

 

コメントを残す

Translate »