バカでアホで間抜けな僕の「湘南新宿ライン制覇」

冬休み中に長い間やりたいと思っていたことをやった。

「やりたいこと」とは、湘南新宿ラインに乗って乗り換えなしで群馬県の高崎から神奈川県の小田原まで行くこと。

全くバカなことを思いつき、アホにも実行に移したものである。

東京都内に住む僕にとってこの「湘南新宿ライン制覇」は、高崎ー小田原の距離を事実上二度往復する事になる。まずは高崎へ向かい、湘南新宿ラインで小田原まで行き、都内に戻る、正に一日がかりのイベントだ。

この距離を走る湘南新宿ラインは少ない。高崎始発は上野行きが多く、東海道線直通でも国府津や平塚止まりが多い。本数が少ない上、小田原行きの終電は16:08と割と早い。快速でさえ小田原まで3時間以上かかるから、ちょっとアタマを働かせればこれが当然であることに気付く。

特に鉄道が好きという訳でもない僕は、湘南新宿ラインにただ乗っているだけでは楽しくないだろうという自覚があり、暇つぶしのために重松きよしの本を二冊持っていった。なぜ鉄道好きでもないのにこんなことをするのだ、と自問することには気が回らなかったが、16:08発の小田原行きの電車では暗すぎて景色が見れなくなるであろうことには気が回り、行きの上野から高崎まで先頭車両に乗って主に線路二本をずっと眺めていた。

この1時間40分、読書をお預けにしてまで得た知識は、JR東日本が結構頻繁に試運転の電車を走らせている、群馬県まで意外と距離がある、高崎線の最高速度は時速約100キロである、熊谷駅なんて聞いたこともないところに新幹線が止まる、高崎線には東海道線と違って変な読めない駅名がないなど、特に面白くもなく今後の人生に参考になりそうなものでもなかった。

「湘南新宿ライン制覇」をやるからには何らかの目標が必要だと考え、高崎から小田原まで同じ席に座ることにした。高崎までは先頭の車両に乗ったので、小田原に行く際には最後尾の車両、つまり行きと同じ車両に乗ることにした。

それがあっけなく7駅目の籠原で目標不達が確定。高崎発の高崎線は、当初10両編成で運用されているが籠原駅で5両増結されるため、最後尾が変わってしまうのだ。日本らしく、律儀な車掌が高崎駅を出てすぐに籠原で増結が行なわれる旨放送してくれたのだが、これが何を意味するのかよく分かっていなかった。さらには、これは増結作業を初めて見学する機会でもあったのにもかかわらず、高崎を出てすぐにうとうとしてしまい、車両がガチャンと揺れた時に、自分が旅の最も面白いところを寝過ごしてしまったことに気付いた。バカとアホな「湘南新宿ライン制覇」に間抜けが加わった瞬間である。

肝心な瞬間をミスって、残ったのはもっぱら読書。やっと小田原に着いて感じたのはただの疲労だった。長距離の電車に乗ったという達成感は、新幹線に乗ればもっと早くもっと遠い博多まで行けたという認識に打ち消され、同日に高崎と小田原のお土産を地元で買った、という満足感に対しても、「だからどうした」とあしらわれそう。

実際成し遂げて、いかに「湘南新宿ライン制覇」の思いつきがお金のかかるくだらないことかを実感した。結局僕は、群馬県と神奈川県まで二千円札をのりこし精算機を通して流通させるために行ったようなものである。

実は高崎の駅前の閉店セールをやっているデパートで、うさぎの着ぐるみを着たお姉さん(だと思う)が作ったかつて食べたことがないほど大きい綿飴を、口も手もべとべとにしながら頬張っている時に、「一応(外国の)弁護士資格を持っている人が、平日の真っ昼間に、こんな所で、女子高生や学生カップルと同じことをしていていいのだろうか」と疑問を抱いた瞬間があった。

その時に「湘南新宿ライン制覇」計画を断念しなかったのが、この話の最もバカらしいところかもしれない。

 
5 Comments

コメントを残す

Translate »