僕は闘う、タクシー業界と~僕が二千円札を持ち歩くようになったきっかけ

日本に来て早くも9ヶ月。その9ヶ月間の大半、僕はタクシーの運ちゃん達と戦争を繰り広げていた。

イザコザの発端は料金の支払い方法。米国ではカード使用が浸透していることもあって、僕は原則として10ドル以上の買い物はカードで済ませていた。朝食代わりのオレンジジュースの1ドルもカードに付ける程だったので、オフィスからアパートまで10分のタクシー料金12ドルも当然のようにカードで支払っていた。ニューヨークのタクシーは運転手にカードを渡さず自分で機械にカードを通せば良かったので、なおさらカードが使いやすかった。

日本に来てもニューヨークからのカード生活の習慣がなかなか抜けない。東京のタクシーは初乗りが710円である為、タクシーに乗車した時点で既に「カード金額」である10ドルを超えつつある。しかし、さすがに1000円未満でカードを使うのには気が引けるし、わざわざ運転手にでかい機械を取り出させてカードを使うのには時間かかり面倒である為、1200円ぐらいをカード使用金額の目安にしていた。

東京での当初の住まいはオフィスから車で10分ほどの所にあった。料金はちょうどカード使用の範囲に入る1250円ぐらいだったため、毎晩カードに付けた。そんな習慣が2ヶ月ぐらい続いたある夜,おしゃべりな運ちゃんから,「お兄さん、タクシー仲間では有名になっていますよ」と切り出された。なんで,と聞くと、どうやら僕がカードしか使わないことが噂になっていたらしい。やっぱり現金の方がいいのか、と確認すると、「そりゃそうですよ」と聞くまでもあるまい、みたいな口調で答えられた。偶然その日は昼間に現金を下ろしていたので,それなら現金で払うよ、と約束したが、支払う際にまたもやケチを付けられた。どうやら1250円に対し一万円札を出したことが気に入らなかったらしい。最後に「お兄さん、評判どおりですね」と皮肉られた。カードを使って欲しくないが、でかすぎる札もいやだ,とは虫のいい話だとは思ったが、運転手も嫌みというより皮肉っぽく話していたので、この体験は後日笑い話ぐらいに同僚に話していた。

年明けにこれが本格的な戦争に発展した。引き金は僕がオフィスにもっと近い住まいに引っ越したこと。これによりタクシーの料金が1メーターの710円になった。金額も1000円以下になったから現金払いに変えたのだが、今度は料金自体にケチを付けられるようになった。12時を過ぎるとオフィスビルの前にはタクシーが並ぶ。その列の先頭にあるタクシーに乗るのは当然の成り行きだと思ったのだが、行き先を伝えるといやな声を出されるようになった。これは夜遅くになればなるほどひどく、ある時など「3時間待って710円だよ」と独り言を俺に聞こえるように言う嫌味たっぷりの運転手もいた。

これにはさすがの俺もかちんときた。てめえが何時間待っていたかなど俺の知ったこっちゃなく、乗客の行き先が埼玉か2キロの距離かなど運ではないか。こんな博打がいやなら深夜に働かねばよく、18時間ぶっ続けで働いている俺が八つ当たりされる筋合いはない。そもそも710円は10ドル近い大金であり、その料金「しか」払わない、などとケチ付けられること自体心外である。2月、3月あたりは足を骨折して松葉杖生活だった為、ますますこの態度にはアタマにきた。

次回は怒鳴りつけてやろう、と一時は腹をくくったのだが、タクシー業界で僕は既に噂になっているという話を思い出した。癇癪を起こした末、全面的乗車拒否にでもなったら困ると気付き,思い止まった。どうしたらこいつらに仕返しできるか、と考えていたら、数年前、母からタクシー料金を2000円札で払おうとしたら嫌がられた、という話が蘇った。

「これだ」、と思いその日の内に「軍資金」を蓄えるため銀行の窓口に行って、2万円を全部二千円札でおろした。余談だが、2千円札の要請は相当珍しいらしく、このとき受付の女性に、2千円札はございません、と断られてしまった。

それ以降、タクシー料金は必ず2000円札で支払っているのだが、実は効果はイマイチ。嫌みでやっているのにそれが通じていないような気がする。この話を同僚にしたら「えー、2千円札は小さいから反対に喜ばれるのでは」、と余り嬉しくないことを指摘されてしまった。

こうして一方的に宣戦布告をしたものの、肝心な相手側に気付かれる前に休戦に入ってしまった。それは上司がこの話を聞いて、問題はオフィスビルの前で列を作っているタクシーは、遠くに住んでいる「いいお客さんのサラリーマン」を期待しているから、流しのタクシーを拾えばいい、と助言してくれたから。僕も不愉快な経験は出来るだけ避けたいので、最近、特に深夜は流しのタクシーを探すようにしている。

このタクシーとの戦争、意外な所で好影響をもたらした。2千円札を色々な所で使い始めたら珍しがられることに気付いたのだ。いいデザインで会話の種。それに今年で9年連続印刷されないと知り、これは流通させねば、と思い立ち、いまではタクシーに限らず、コンビニ、スーパー、電車等々、そこら中で2000円札を使っている。この4ヶ月、東京都千代田区と港区での2000円札の使用が他の区や過去に比べて極端に増えたに違いない。

2千円札への拘りは私生活にも影響を与え始めている。今では習慣として、お釣りで1000円札がきても使わずに銀行で2000円札に両替してしまう。その上硬貨を持ち歩かず直接銀行に預け入れてしまうため、この頃1ヶ月間いくらぐらいの現金を使っているのかさっぱり分からなくなってしまった。これも2000円札の流通の為、と割り切っている。

大人気であったこの投稿、二千円札をテーマにした続編があります。

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