救ってください、僕を腕時計依存症から

(English version available)

僕は腕時計依存症にかかっている。それも結構重篤だ。

これがどのような病気なのかを知らない人のために、具体的な症状を列挙する。

① 雑誌は腕時計の広告をチェックするためだけにペラペラめくる。

② 大した用事もないデパートに腕時計売場を目当てにふらっと入ってしまう。

③ 銀座腕時計ブティックショップツアーのガイドを務めることができる。

④ 高島屋ウオッチメゾンの何階の何処にどのブランドが置かれているか把握している。

⑤ 鬱陶しい夏の中、唯一と言える楽しみが毎年三越の日本橋本店で開催される「三越ワールドウオッチフェア」である。

⑥ Hodinkeeアプリをスマホにダウンロードしている。

⑦ ローレックスとオメガのうちどちらを選ぶか迷う。

⑧ クロノグラフを「ストップウオッチ」と呼んではいけないことを学んでいる。

⑨ 生計が破壊する覚悟でトゥールビヨン(Tourbillon)を購入したいと思っている。

⑩ 腕時計を常時両手に着用している。

ちなみに、これらのうち一つをもってでも深刻な症状と言えるため、いずれかが該当する人は精神科で診断を受けたほうがいい。すでに腕時計依存症にかかっている可能性がある。

僕の発病はロースクールの卒業祝いとして親から貰った腕時計がきっかけであった。ジラール•ペルゴ(Girard Perregaux)のVintage 1945と呼ばれるこの腕時計、簡素だが品格がある表と腕に合うようカーブになっているフレームも魅力的だが、何よりもメカの一部が見られる裏に惹かれた。

こんな上品な時計をつけるほど品のある生活を僕はしていないため、このジラール•ペルゴは豚に真珠化してしまったが、これが引き金となり、社会人になった際には僕のラフなライフスタイルに合った表までがスケルトンである腕時計を、自分から自分への就職祝いとしてプレゼントすることを自ら誓った。

要は、もう誰も買ってくれなくなったので、何らかの口実を見つけて自分で買うことにしたわけである。

もっとも、社会人になってからの数年は、腕時計依存症も早々と寛解期に入ったかと思われた。というのも、「表もスケルトン」という条件は意外とハードルが高いのだ。

スケルトン時計といえばゼニス(Zenith)が有名だが、このブランドの中途半端にメカを見せるスタイルは、シュワちゃんのターミネーターを思い出させてどうも苦手であった。

いくら探しても理想のスケルトンウオッチは見つからず、就職して5年、そろそろ腕時計依存症も完治したかと思われた時期に巡り合ったのがこれ。

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ウブロ(Hublot)のAero Fusion Classicと呼ばれるモデルのブラック・セラミック版である。裏ももちろんかっこいい。

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この時計は時間が読みにくい点以外は正にパーフェクトで、これぞ長年待っていた運命の出会いとは思ったものの、実際に購入する際に躊躇した理由がもちろん価格であった。おいくらであったかは余りの金額で口にできないが、時計が夢にまで出てきた一週間後、「一生一度の買物だ」と自分に言い聞かせ購入に踏み切った。

実はこれが罠であった。

腕時計依存症の兆候が現れていた僕にとって「生涯最初で最後」の腕時計の購入などあるはずもなく、それどころか以前は目もくれてくれなかったブティックの店員が、Hublotさえ着用していればいくらでも相手してくれるようになり、腕時計依存症に拍車がかかってしまった。

人生、一度転落し始めると坂道を転げるように早くダメになる。

「スケルトンの就職祝い」で目的を達せたはずの時計めぐりが「青い時計」というさらに漠然とした新たな目標のために継続され、気に入った時計3点をFacebookの友達による投票にかけるという企画をいつしか立ててしまった。

結局、軍配が上がったのがヴァシェロン•コンスタンタン(Vacheron Constantin)のOverseas Dual Time。この時計はそもそもの僕の好みと一致しており、加えて青のモデルが限定版だったこと、発表されたばかりのモデルチェンジによりこのスタイルは本年が最後になることが、Hublotの時には1週間もかかった決断期間を1日に大きく短縮させることに繋がった。

ヴァシェロン•コンスタンタンの購入により、腕時計依存症にとうとう歯止めが効かなくなってきたのが現状である。

「青い時計」の要望をまたスポーティーな時計で満たしてしまった今、次に求めているのが「簡潔な時計」。すでにその条件を満たしているジラール•ペルゴがあるのにもかかわらずジャガー・ルクルト(Jaeger-LeCoultre)のReversoに目をつけているのは、Reversoには両面時計という独特のかっこよさがあるからという、腕時計依存症にかかっていない人にとっては多分どうでもいい理由だ。

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ああ、このままでは腕時計のせいで人生が破壊してしまう!

これは助けを求めた叫びのブログ投稿である。

誰か、僕を救ってください。

 
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