米国中間選挙を解析!(前編)

アメリカ大統領任期4年の2年目にある中間選挙が11月8日(火)に実施される。多くの大統領にとって鬼門となるこの選挙を、バイデン大統領は克服できるのか。解説を兼ねて予想してみたい。

【改選を迎える議席】

アメリカの連邦議会は下院議員435人と上院議員100人から構成されている。

下院の議席は各州に対して人口に基づいて割り当てられるが、人口に関わらずどの州にも最低1議席が与えられる。今年は10年おきに実施される国勢調査に基づいて議席が再割当てされた直後の選挙なので、選挙区の支持層が激減したり、現職同士が衝突したりする影響で、通常なら負けないような現職が惨敗することがあり得る。下院議員の任期は2年なので、今回の選挙では435人全員が改選を迎える。

上院の議席は各州に2議席ずつ割り当てられている。これは憲法上定められているだけでなく、実質改正さえできない規定なので、どの州も上院では同等に扱われるというのはアメリカの政治の本質にあると言える。2年ごとに1/3の議席が改選し、今年は34議席が改選を迎える。

連邦議会の選挙に加えて36の州で知事選が実施されるが、知事選は地元の事情により左右されやすいので、この投稿では下院と上院の選挙についてのみ解説する。

【下院選の背景】

一般論として、中間選挙では大統領の政党が下院で議席を減らす傾向にある。これは、2年も経つと大統領の賞味期限が切れたり、有権者が政権に対してチェック機能を働かせるためである。

1882年から数えると、今回は36回目の中間選挙となる。(1878年以前、中間選挙は同日に実施されていなかった)。これまで35回の中間選挙のうち、大統領の政党が下院で議席の割合を増やしたのは1934年、1998年、2010年の3回のみ。(1902年の中間選挙では大統領の党が議席を増やしたが、これは定数増加の恩恵を受けたものであり、議席の割合は減少している)。いずれも特殊な事情があり、1934年は景気が堅調、1998年も景気が堅調で大統領の支持率が約65%、2002年はアフガニスタン戦争の真っ最中で大統領が高い支持率を維持していた。

今回のバイデン大統領には、特殊な事情は見当たらない。夏以降、彼の支持率は40%前半で低迷しており、危険水準と言える。全米世論調査でも、中間選挙における投票先として共和党が民主党を2〜5ポイント上回っている。選挙区の一票の格差の影響から民主党は共和党を数ポイント上回ってやっと互角になるので、大統領の支持率も投票先の世論調査も民主党の敗北を示唆している。

現在、バイデン大統領の民主党が下院を抑えている。だが僅差であり、共和党が6議席増やせばひっくり返る。もし民主党が過半数を維持するようなことがあれば、まったくの予期されない結果で、共和党の惨敗と見做されることは間違いない。

よって、下院では共和党が過半数を取られるか否かというより、どれだけ早く出口調査に基づいて共和党の勝利が報道されるかが注目される。日本時間の11月9日(水)の午前8時〜9時にかけて東海岸で開票が始まるが、9時台、10時台に共和党の勝利が伝えられれば、共和党にとって順調に票が伸びていると言えるであろう。

【上院選の背景】

上院では34議席が改選を迎えるものの、実際に競われているのは10-12ほどの議席である。

上院選で注目したいのは以下2点だ。

まず、上院の方が選挙区が広く有権者も多いので、下院のように極端な思想の候補が当選しにくい傾向にある。同じ理由で、候補の資質も上院の方が問われる。今回の共和党の候補の多くは、トラウンプ前大統領の支持またはトランプ前大統領と同様の思想を唱えて予備選を勝ち抜いてきており(アメリカでは、候補は政党から公認をもらうのではなく、党員が投票する予備選で選ばれる)、結果、思想的、資質的に疑問が残る候補者が複数いる。オバマ大統領第1期目の中間選挙で共和党は候補の資質が課題となり過半数獲得を逃したが、今回も2010年の二の舞になる可能性がある。

2点目は、バイデン大統領の支持率以外の影響だ。通常、中間選挙は現職大統領に対する信任投票の要素が強いのだが、今回の選挙ではトランプ前大統領が積極的に関与してきているので、今回の選挙は現・前大統領双方に対する信任と言える変わった構図になっている。トランプ前大統領は共和党員の中では高い支持率を維持しているものの、民主党はもちろんのこと、無党派層ではからっきり人気がない。

さらに、世論調査によると、中間選挙にしては珍しく、大統領の政党の党員が高いモチベーションを保っているようである。理由は、今年の6月に連邦最高裁が50年間守られてきた中絶の権利を否定したことにある。中絶はアメリカの社会問題の中でも最も重要といえ、民主党員は、最高裁の判決を議会で覆すことに意欲を示している。(連邦最高裁の判決は、中絶の可否の判断を議会に委ねる内容であった)

現在、上院では共和党と民主党(および無所属民主党派)がそれぞれ50議席ずつ保有しており、憲法上、均衡は副大統領が破る。民主党のハリス副大統領のおかげで上院も民主党が抑えているわけだが、共和党が1議席でも増やせば、こちらもひっくり返る。

通常、バイデン大統領の低い支持率を踏まえると共和党の議席増加は間違いないが、トランプ前大統領の不人気、共和党候補の資質の問題、連邦最高裁の判決の影響といったトリプルパンチが共和党にとって逆風となっている。大統領の支持率が負けるのか、共和党のオウンゴールが負けるのか。近年としては稀なレベルの低い戦いとなっているが、ジョージア州、ノースカロライナ州といった東海岸の開票が進んでいる日本時間の10時半頃には情勢が見えてくるだろう。

後編に続く)

 

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