日本語が宝の持ち腐れになってしまうから、僕は小室圭の法律事務所の内定を辞退した

小室圭が無事ニューヨーク州の司法試験に合格したそうである。これで彼もやっとニューヨークの弁護士としてスタートを切れる

実は僕は、小室が現在勤めているローウェンスタイン・サンドラー(Lowenstein Sandler)と呼ばれる法律事務所から内定をもらっていた。小室の先輩になっていたかもしれないと考えると、ちょっと感慨深い。

当時、僕はローウェンスタインの他にもう一つの法律事務所から内定をもらっていた。二つの事務所は大きく性質が異なっていたのだが、今振り返ってみても、最終的にローウェンスタインの内定を辞退したことは正しい選択だったと思う。

以前解説したとおり、ローウェンスタイン・サンドラーはニュージャージー州に本社を置く法律事務所である。ニュージャージー州ではその名を知らない弁護士はいないほど有名で、入所すればニュージャージー州の大規模案件の多くに携われることは間違いなかった。

さらに僕は、若い頃からニュージャージー州で暮らしていたので、ローウェンスタインの本社は「地元」とも言えた。極めてローカルなアメリカの法曹界において、地元で1、2を競う事務所で勤められることはとても魅力的であった。また、当時のローウェンスタインはロビー活動事業にも力を入れていたので、政治好きの僕は、法律をしながら政策作りに携われることにも惹きつけられた。

しかし、 ローウェンスタインには一つだけ大きな課題があった。それは日本との関係が皆無だったことである。

ローウェンスタインはニュージャージー州にある本社とニューヨーク市にある支部に加えて、首都のワシントンやカリフォルニア州にも拠点を構えているが、海外拠点は一つもない。所属している弁護士のプロフィールも、アメリカ生まれのアメリカ育ちが一般的で、日本語どころか(アメリカでは多くの人が話せる)スペイン語でさえも話せる弁護士があまりいない。

僕は日本生まれで日本語の読み書きができることから、就活をしている時から、仕事では日本語を活かしたいと思っていた。また、現実的な問題として、僕の英語力はネイティブなアメリカ人には遠く及ばないことを高校時代から痛感していたので、僕には言語力が物を言う法律事務所でネイティブなアメリカ人と互角に競える自信がなかった。

日本語が使えることが自分の強み。そう考えていた僕にとって、ローウェンスタインで勤めることの最大の問題は、事務所が極めてドメスティックであることだった。

他方で、もう一つの内定をもらえた法律事務所は、ニューヨーク市に本社を置きながら世界中に約20拠点を有しており、東京にも事務所を構えていた。さらには、約900人の弁護士のうち半数以上が海外オフィスで勤務しており、ニューヨーク市に本社を置きながら海外にいる弁護士の方が多いという稀に見る国際的な事務所だった。弁護士の一般的なプロフィールを見ても複数の言語ができるのが当たり前で、僕は正直この事務所から内定をもらえるような学歴の持ち主ではなかったが、日本語ができたことが大きくプラスに働いたのだと思う。

この国際性が、僕がこの事務所を選択する決め手となった。

しかし、そんな事務所でも、ニューヨークでの勤務は驚くほど日本とは無縁だった。日常はもっぱらアメリカ国内の案件に携わるばかりで、僕の日本語が頼りにされたのは、日本語で書かれた文書の意味を尋ねられたり、翻訳を依頼された時で、いずれも弁護士としての活躍が期待されている場面ではなかった。

結局、弁護士として日本語を活かせる環境になったのは、東京オフィスに転勤させてもらった後だった。東京オフィスは基本的に日本語で業務を回しており、日本企業に対し日本語でアメリカの法律に関するアドバイスを提供していた。実はこれは珍しいことで、外資系法律事務所の東京オフィスの多くは日本語で対応していないか、そもそも日本語で対応できる人材が十分にいない。そのような東京オフィスに勤めてしまうと、日本語ができる数少ない弁護士はもっぱらメールの日本語チェックや和訳レビューに駆り出されてしまうので、弁護士としてやりがいがある仕事をあまりやらせてもらえない。

僕は小室圭が今いる環境を意図的に避けた。そんな僕が考えるに、彼は数年以内に日本語が活かせる環境を求めて、より国際的な事務所に転職するのではないかと思う。彼はニューヨークの弁護士になって夢が叶ったと思っているかもしれないが、ネイティブレベルの英語力がない者として成功を収めるには、とても厳しい世界である。彼も僕と同様に日本語を武器にしてキャリアを積んでいくことを考えているのであれば、ローウェンスタインでは日本語がまったくの宝の持ち腐れになってしまう。

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