僕は文才なき直木賞受賞者になる(前編)

僕の肩書きは自称「直木賞受賞予定作家」。このブログがいつか自伝小説として纏められ、ベストセラーになる日が訪れると信じて疑わない。

もっとも、僕には自分に文才がないという自覚がちゃんとある。

僕の初めての仕事は、米国裁判官の下で働く法務書記としてだった。任期は1年と決まっており、主な仕事は、毎週、判決一本の草案を執筆すること。通常なら雑用が多いポジションなのに、こういった重い役割を任せてもらえたのはとてもありがたいことだったと今でも思っている。

僕が仕事に慣れて上司もそこそこ評価してくれていると信じていたある時、あまりの忙しさに他の裁判官の下で働く法務書記がサポートに入ったことがあった。僕の上司はその助っ人にも判決の下書きを命じたのだが、彼が彼女のドラフトに目を通した直後に発した言葉が今でも忘れられない。

「彼女、文章がうまいね」

それしか読んでないのに。それも僕に面と向かって。

いつでも自信に溢れている僕だが、この時ばかりはさすがにへこんだ。裁判官と共に仕事をしてきた10ヶ月間、数十本もの判決の草案をお見せしたにもかかわらず、文章をお褒めいただいたことは一度もなかった。そして任期満了までの残りの2ヶ月間、とうとうその言葉は頂けなかった。

まあ、でも、文才がないことは早くから分かっていたことである。中学生時代だったろうか、「文章が上手く書けるようになる講座」みたいなものに参加したものの、得られたのは、自分にはいいネタを思いつく想像力もなければ、面白い文章を書く表現力もないという、厳しい現実の確認だけだった。

ネタについては終日何も考えてないバカだからどうしようもないとして、文章の質については努力でなんとかなるのではないか、と僕は直木賞受賞を目指してまだまだ諦めていない。

後編に続く)

 
3 Comments

コメントを残す

Translate »