2021年2月 22日
時には一般常識からかけ離れる、犯罪者を代理する(米国)弁護士の倫理観(後編)
(前編から続く)
しかし、この機密保持義務は、場合によっては弁護士をとてつもなく難しい立場に置く。
1970年代、米国ニューヨーク州でこんなことがあった。
ある弁護士は、女学生を殺人した容疑で逮捕された被疑者の代理人として雇われた。その弁護士は、依頼人の話を聞いているうちに、依頼人がもう二人の学生を殺していることだけでなく、死体がどこに埋められているかまで知ってしまう。
弁護士が依頼人から聞いた話を確認するために死体のあり場所に行ったところ、言われた通り死体はそこにあった。そこで、弁護士は死体の写真を撮ったが、警察に報告することはなかった。それどころか、ある男性が未だ行方不明の自分の娘が依頼人に殺害されているかもしれないと思って話を聞きにきた時も、弁護士は父親に娘が既に殺されている事実を伝えなかった。
これは一般の感覚からすると、ありえないことだと思う。行方不明の子供を血眼に探している親を前にして、子供の死体が埋められている場所まで把握していたら、僕でさえその秘密を明かさない自信はない。
しかし、それは(少なくとも米国の)弁護士としては、やってはならないことである。弁護士として依頼人に対する忠義が求められている以上、依頼人の秘密を、それも依頼人に不利になることが分かっているのに、第三者に開示するなど、もってのほかだ。*
このように、弁護士とは時には一般常識とかけ離れた行動に出ざるを得ない時があるのだ。
*米国の弁護士は、通常、まだ起こっていない犯罪を阻止するために依頼人の秘密を開示することは認められている。しかし本件では、殺人は既に実行されていたので、この例外が該当しなかった。