痴漢事件で防衛医大教授に最高裁が逆転無罪を言い渡した。なんとも納得しがたい判決である。前置きしておくが、あくまで弁護士の考えとして原判決を覆した法的論法に納得がいかないのであって、教授がわいせつを犯したか犯していないか、冤罪だったか、という事実に関しての考えはない。

5人が審理し、3対2という小差だった。全員が意見を述べるという稀な判例で、割と短く簡潔で、僕でも分かる日本語を使っているので、興味のある人は全文読める。

判例をざっと要旨すれば、公訴によると被告人は満員の電車の中、乗客であった17歳の女性に悪質なわいせつ行為をした。被告人は一貫して犯行を否認。物的証拠もないことから、公訴事実を基礎付ける証拠は女性の供述しかない。最高裁は女性の供述の不自然さ、不合理さを指摘し、信用性に疑いを投げかけ、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認があったという理由で原判決を破棄している。

言うまでもなく、「疑わしきは被告人の利益に」は刑事裁判の原則であり、それを最も反映しているのが有罪判断に必要とされる証明基準、「合理的な疑いを超えた証明」である。主文、補足、反対意見すべてこれは問題視していない。