たまにビジネスクラスで飛ぶと、僕はここぞとばかりにがめつく(後編)
(前編から続く)
さて、飛行機が離陸すると食事が始まり、僕にもエンジンがかかる。
離陸直後の夕食は和食か洋食かを選ぶ必要があり、「両方」という選択肢はない。メニューにはご丁寧にも僕のような意地汚い客向けにわざわざ「お一人様おひとつずつです」と書いてある。ちなみに、エコノミークラスにはそういった制約がないので、大食の方はぜひ「余ったら二つください」と注文してみることをお勧めする。
もっとも、和食と洋食双方を食べられないからと言って、夕食の物足りなさに我慢する必要はない。ビジネスクラスでは夜食も準備されており、スープやサラダ、サンドイッチや麺類、丼やカレーがメニューに載っている。”夜食”である以上消灯後に注文されることが想定されているのだが、メニューには「いつでもご注文いただけます」と書いてあるので、僕は遠慮なく夕食の時に夜食のチーズやスープを追加する。
この時点で、僕はたぶん乗務員に「問題児」のレッテルを貼られている。他方で、世の中には下には下がいるもので、ある時、夕食が始まる前に夜食のチーズを楽しんでいたら、乗務員が後ろにいる客にラーメンを持っていくのを目撃した。流石の僕も夕食の前にラーメンを食べようとは思わないので、このような輩がいると安心する。
さて、存分に飲酒して、たらふくに食べれば、当然のことながら眠気に襲われる。本当は飛行機の中でやることが多すぎて寝ている暇などないのだが、本能には逆らえない。よって、睡眠を取るのは仕方がないとして、重要なのは、酔いが冷めたらすぐに起床し、十分な飛行時間を残して活動に戻ることである。そして、もちろん、読書や映画の鑑賞を始める前に、夜食のラーメンとスープとサンドイッチを頼むことである。この頃には乗務員も僕がどんな客か分かってきているので、「またあなたですね」みたいな感じで注文を取ってくれる。
夜食を食べながら観る映画は実に幸せなひとときであるが、幸福な時間は瞬く間に過ぎてしまうもので、飛行時間が2時間弱になると機内が点灯される。この時点で僕は、またしてもメニューを手にし、朝食を和食にするか洋食にするかで悩み、夜食メニューのスープとサラダを追加するかで迷う。この頃には、分かっているはずの乗務員も「まだ食べるのか」と呆れた雰囲気になる。
ちなみに、機内食のラストオーダーは大体着陸の1時間前であるが、一度だけ、日本酒を飲みすぎたのか点灯に気づかず寝過ごしてしまったことがある。目が覚めた頃にはすでに飛行時間が残り1時間15分に迫っており、僕としたことが、夜食を食べるタイミングを逃してしまっていた。ジョー、一生の不覚である。
朝食を食べ終えると、天国の時間もあとわずか。残っていることは、「予定時間より早く到着します」と自慢げにアナウンスするパイロットに対して「余計なことをするな」と愚痴をこぼすのと、エコノミークラスの客より早く降りて最後の優越感を楽しむことくらいである。
そして、入国手続きの頃には、12時過ぎたシンデレラのように、庶民に戻ってしまう。