2021年7月 5日
八方美人の僕は、幻の町の市長選に常に立候補している(前編)
「ジョー、みんなに好かれる必要はないんだよ」と同級生に揶揄され、「お前は救世主になりたいんだな」と友人に弄られ、「世の中には相性の合わない人がいることを覚えておきましょう」と性格診断テストにアドバイスされる僕は、俗にいう八方美人である。
僕が生きている限り、唯一の願いは、終日、世界のすべての生き物に、どの人間よりも好かれることだ。
これは実に疲れることでもある。
例えば、ある友達の彼氏の従兄弟が飼ってる犬の兄弟の飼い主の祖母の教え子の20年前に別れた元妻が僕についてあまり関心がない、みたいな話を聞くと、僕は「え?なんで、いつから、どこでその人が僕を嫌いになったの?」としつこく問い詰めて、その晩は、自分がいつどこでしたことの何がいけなかったんだろうと悩んで一睡もできない。
反対に、同僚の彼女のはとこが15年前に飼ってた猫を買ったペットショップの現在の店員の父親の元上司の子供の婚約者が僕の噂を聞いたことがある、みたいな話を耳にしたら、「え、その人はどこでどうやって僕のことを知ったの?」と根掘り葉掘り聞いて、その晩は、自分が身の回りの人を超えて知られていることに興奮して一睡もできない。
(後編に続く)