送りバントもやめよう
春の甲子園が終わった。
NHKで放送されていた試合を観ていたら、またしても「高校野球にやめてほしいこと」について書きたくなった。昨年に続くこの第二弾で取り上げるのは送りバント。
僕は送りバントが嫌いだ。
理由を説明するにあたり肝心になるのが、まず野球の試合に勝つために最も重要視しなければならないものはなにか、という問いに対する答えを整理すること。答えは、安打でもなく、エラーを避けることでもなく、得点を挙げることですらない。
野球で最も重要なのは「アウト」だ。一試合で各チームに与えられるアウトの数は限られているが、極端な話、最後のアウトを取らなければいくら相手チームに点の差をつけていても勝利にならないし、最後のアウトさえ取られなければ、いくら負けていても敗北は確定しない。攻撃の時にはアウトを避け、守備に回っている時にはアウトを取るのが、野球試合で最も優先すべき目標だ。
犠牲バントの根本的な問題は、攻撃しているのにもかかわらず「アウト」を容易に与えることを前提としているプレイであるところ。そしてアウトを犠牲にしてまで得るものは何かというと走者が進塁して得点圏に入ることだが、得点のめどが立つことが果たしてアウトを犠牲にするほどの価値があるかと考えると、甚だ疑わしい。
この点について、セイバーメトリクスなみに考えみよう。
下記の表をご覧いただきたい。これは、メジャーリーグ2014年シーズンの、0アウト、1アウト、2アウトにおける各出塁状態での得点数の期待値を示した表だ。例えば、走者「120」の「1アウト」の欄を見ると、2014年のメジャーリーグの試合で1アウト1、2塁状態になった回では、平均して0.8623点が入ったことが分かる。
走者 | 0アウト | 1アウト | 2アウト |
000 | 0.4552 | 0.2394 | 0.0862 |
003 | 1.2866 | 0.8873 | 0.3312 |
020 | 1.0393 | 0.6235 | 0.2901 |
023 | 1.8707 | 1.2714 | 0.5351 |
100 | 0.8182 | 0.4782 | 0.1946 |
103 | 1.6496 | 1.1261 | 0.4396 |
120 | 1.4023 | 0.8623 | 0.3985 |
123 | 2.2337 | 1.5102 | 0.6435 |
[出典 www.baseballprospectus.com]
犠牲バントの観点から注目して欲しいのは、送りバントが最も戦略的に理にかなっていると思われる0アウト1、2塁の場面でさえ、バント前の得点期待値(1.4023)の方がバント後(1アウト2、3塁)の得点期待値(1.2714)より高いこと。その他頻繁に犠牲バントが活用される0アウト2塁の場合も、バント前の期待値(1.0393)の方がバント後の1アウト3塁状態での期待値(0.8873)に比べて高いし、0アウト1塁の場合の期待値(0.8182)とバント後の1アウト2塁状態での期待値(0.6235)はもっと差が広い。そもそも送りバントをすることによって得点期待値が上がる状態などない。 よって僕は送りバントは基本的にはするべきではないプレイだと思っている。
ただし、犠牲バントは一塁へのスライドとは一つの点で大きく異なっている。それは、一塁へのスライドはいつやっても確実に間違っているプレイであると断言できるのに対して、犠牲バントは限定的ながらも適切な状況があるところ。
例えば、打率がメンドーサ・ラインを大幅に下回っている打者の打順が回ってきた時。そんな打者はいくらバットを振ってもむやみにアウトカウントを増やすだけなので、送りバントでもして走者を進塁してくれた方が貴重なアウトの対価が得られる。
さらに、とにかく1点が必要な場面(たとえば9回の裏、同点または1点を追っている場合)であれば、0アウト2塁または0アウト1、2塁になったら、送りバントをしたほうが1点を挙げられる可能性が高いため、バントが正しい戦略になる。(ちなみに、0アウト1塁で送りバントをすると得点の確率が若干落ちることに注目)
高校野球はメジャーリーグとは違う、と反論されそうだが、これは野球のレベルの話ではなく統計学の問題である。三つ目のアウトさえ与えなければ攻撃は永遠と続くのだから、アウトを与えない戦略の方が長期的に見てより多くの得点につながるのは数学的に当然の話だ。犠牲バントはとにかく1点を挙げることを最優先にする戦略。それがふさわしい場面があることは認めるが、その場面とは1回の表、先頭打者が早々と出塁したところではないことは断言してもいい。