競合がいなく需要もない僕の二つの専門(後編)

前編から続く)

僕は憲法が大好きだったくせに、ロースクール卒業、ニューヨークの法律事務所に入所し、企業が市場で資金調達することを法的に支援するキャピタルマーケッツという部署に所属して、憲法とは無縁の生活をしていた。そして、僕はそこでハイイールド社債(high yield bonds)というものについて学んだ。

ハイイールド社債とは、財務状況が悪い企業が発行する社債である。名称の由来は、財務状況が悪いから社債(bonds)の利子(yield)が高くなる(high)、という意味だ。いっとき昔は、こういう社債は企業価値のない会社しか発行しないということで「ジャンク社債(junk bonds)」と呼ばれたこともあったが、現在では、アメリカン航空といった一流企業でも発行するようになる程一般化している。

ハイイールド社債の特徴は、通常の社債と違って発行条件が厳しいところにある。社債を購入する投資家からすると、もともと財務状況が芳しくない企業なので、利子の支払いと元本の返済ができるのか心配になるため、ハイイールド社債の発行企業に対して、新たな借金の負担や配当金の支払いを制約することを求めてくる。他方で、企業側としては事業への制約を限りなく軽減したいので、発行条件の交渉は難航し、条件も複雑化する傾向にある。

僕はこの難しいハイイールド社債についてニューヨーク法律事務所の専門家に数年間に渡ってしごかれながら学んだ。

ところが、日本に戻ってきてからは、一度たりともこの知識と経験が活かされたことがない。ある銀行員になぜ日本ではハイイールド社債がないのかを聞いて見たら、当たり前の回答が戻ってきた。永遠ゼロ金利の日本では、8%もの利子を払わずとも、別に厳しい条件を課されなくとも、ガンガン資金調達ができるのである。

このように僕は、競合どころか需要もない国内有数のハイイールド社債の専門家になっている。

 
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