ボストンの冬に慣れると、どうも東京の冬は物足りなくなります
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これは四季シリーズの第四弾です。
私は毎年冬が待ち遠しくてしょうがないのですが、ただ冬ならいいという訳ではなく、好むのは「冬らしい冬」です。そのような理由から「寒いからこそ冬、雪が積もってこそ冬」が持論である私にとって、2月中に「今日は寒いから嫌だ」などと苦情を言う人は、そもそも冬の本質が分かっていないわからんちんだと思ってしまいます。
もっとも、長年ニューヨーク市の郊外に住んでいた私は、寒さに対する感覚が周囲の東京都民より大分ずれているようです。ニューヨークと聞くと日本生まれ•日本育ちの方はロッカフェラー•センターのクリスマスツリーやタイムズ・スクエアの新年カウントダウンを思い浮かべるかもしれませんが、12月のニューヨークなどそれほど憧れるものではありません。緯度的には札幌に近いほどニューヨークは北にあるので、「寒さに慣れていない東京都民は気軽に冬のニューヨークに行ってはいけない」と忠告したくなるほどニューヨークの冬は寒いのです。
とはいえ、厚着さえすれば外を歩けるのですから、ニューヨークの冬などボストンに比べれば暖冬です。
私は大学•大学院時代の6年間を過ごしたボストンで本当の冬というものを学びました。ボストンの冬は具体的にどのように寒いかと説明しますと、真冬の二月にセルフサービス•ガソリンスタンドで自ら給油をする時には、ノズルを車のタンクに差し込んだらさっさと車内に戻って、そこで満タンになるのを待ちます。セーターを身につけて、ダッフルのジャケットを着て、手袋をして、帽子をかぶっていても、外に5分もいると耳の感覚を失ってしまうほど寒いからです。
寒さもそうですが、東京に戻ってから何よりも恋しくなったのが雪です。例年のボストンで初雪がちらちら舞うのは10月の下旬。その後1月から2月にかけて雪のピークを迎え、3月の下旬に春の兆しが現れる頃には、計60センチから90センチ程度、多い時には120センチ以上の雪が降っています。
雪が毎週の頻度で降るのに慣れると、「雪とは15センチから気にするもの、30センチから慌てるもの」と思うようになってしまいますが、すると全くと言っていいほど雪が降らない東京がどうも物足りなくなります。そして慣れない雪に慌てふためく都民が滑稽に見えます。昨年、東京は何十年ぶりかに20センチ以上の雪が降りましたが、東京の基準からすると「大雪」が降った翌日、まだ氷点下であった日中に地元の商店街を散歩していたら、ある店のご主人が店前の雪をお湯で溶かしていました。慣れないとは怖いものだと思いつつも、「それは常識的にありえないだろう」と笑ってしまいました。
季節に関して言えば、どうやら私は日本で住む地域を間違えたようです。夏の暑さから逃れるため場所を避暑地といいますが、私は逆に、本格的な冬がある青森のような「向寒地」にたまに行くことを検討したほうがいいのかもしれません。