飛行機事故検証プロになりたくなって、科学を勉強しとけばよかったと今さら後悔(後編)
(前編から続く)
当時の僕は、まさか自分もフライトシミュレーターにハマるとは夢にも思っておらず、そんな彼に冷ややかな目を向けていた。ただ、唯一興味を示したのが、彼に見せてもらった香港の旧啓徳空港での着陸の動画だ。険しい山々に囲まれ、都市のど真ん中にある空港で、45°角度で着陸する飛行機の映像は、飛行機オタクでなくても目を惹かれる。
これをきっかけにちょっとだけ興味を持つようになった飛行機。いつしかメイデーと呼ばれるカナダのドキュメンタリー番組のDVDを、わざわざ特別なプレイヤーを購入してまで見るようになったわけだが、ある時ふと気付いたことがある。
理科がまったく理解できてない僕には、実はこのドキュメンタリーの面白さが半分もわかっていない。
たとえば、飛行機で最も恐ろしい状態であるストール。分かりやすく説明すると、ストールとはパイロットが機首を上げすぎて飛行機が失速してしまうことであり、この状態に陥った飛行機は、もはや飛行しておらず落下している。
僕はエールフランス447便墜落事故についてめちゃ詳しいので、「この状態から回復するには機首を下げてエンジン出力を上げるしかないんだ」と偉そうに論じることができる。しかし、正直、これがなんで有効な手段なのかは理解していない。なにせ、飛行機が飛べることを可能にしている物理的現象の揚力の概念がよくわかっていないのだ。そんなんでは、揚力がどのように生まれてどのように失われるのかが分かるはずもない。
揚力といった基本的な概念さえも理解していないと、飛行機の高度が上がると気圧が落ちる(ヘリオス航空522便墜落事故)とか、エンジンが水を吸い込みすぎるとエンジンが燃焼しなくなる(タカ航空110便緊急着陸事故)とかの説明を聞いても、「ふーん、そういうもんなんだ」と反応することくらいしかできない。
このような深刻な理科オンチのせいで飛行機事故検証のプロになる夢が打ち砕かれてしまった僕は、「あの頃ちゃんと科学を勉強していれば」と後悔する。
だから、「勉強なんて役に立たない」と考えている子ども時代の僕に伝えたい。
いろいろある人生だ。何があるか分からないので、舐めてはいかん。
私の麻布同期の友達に東大で航空技術が専門でJALに勤めたのがいる。いつか紹介してあげる。面白い話が聞けると思うよ。