「孫、博打で大損」シナリオのオレオレ詐欺〜僕ならありえたのに祖父引っかからず
僕がまだニュージャージーに住んでいたある日、母に急に呼び出されて尋問にあった。
「ジョー、ギャンブルで数百万損したんだって?」
寝耳に水とはまさにこういうことを言う。
即に否定したところ、母は今度はもう少し優しい口調で、「何かあったのならちゃんと相談しなさい」と念を押してきたのだが、身に覚えがないことについては相談しようがないので、「何の話だか分からない」と答えたところ、一応納得してもらえ、経緯を説明してくれた。
事の発端はそのすぐ前に母が祖父から受けた電話であった。その時に祖父がした話はこうだ。
先程ジョー君から電話があり、「博打で損しちゃったので三百万円振り込んで欲しい」と言われたんだけど、ちゃんとママに相談しなさいと伝えて電話を切った。心配だったので、その後直ぐに連絡を入れた。
要は、祖父はオレオレ詐欺にあったわけである。
もっともその頃はまだ「オレオレ詐欺」という言葉がなかったので、誰もが何が起こったのかよく分かっていなかった。
この話から学ぶことはふたつある。
一つ目は、祖父はすごい人間、ということである。様々な防止策が取られている現在でさえ被害にあうお年寄りが絶えない中、まだオレオレ詐欺の存在が知れ渡っていない時代に、突然米国に住んでいる孫(と信じる者)から数百万円をせがまられ、言われた金額がドルでないことがなんとなくおかしいという分析を瞬間的に行え、受けた電話に冷静に対応した後、孫の母にフォローまでしたのだ。とにかく並の人間ではない。
二つ目は、僕なら博打での大損害をやりかねない、ということである。
僕は大のギャンブル好きだ。ブラックジャック、ルーレット、クラップス、ポーカー。カジノでできないゲームはないと言っても大げさではない。最近はとうとう、あるバカ御曹司が105億円の損害を出して有名になったバカラにまで手を出すようになった。僕の夢は、ジェームズボンド並みに格好よくカジノゲームをマスターすることなのだ。
全ての始まりは大学2年生の冬休みに行ったラスベガス。それ以降、大学院時代にはアトランティックシティー、ニューヨーク勤務時代にはフォックスウッズ、東京勤務時代にはソウル、直近のシアトル勤務中にはベインブリッジ島近辺、と僕の人生はどの段階においてもカジノと切り離しては語れない。ちなみに、僕の出張の好き嫌いも、国内やタイはダメ、シンガポールやベトナムはよし、と基本的に出張先にカジノがあるか否かで決まる。
祖父がオレオレ詐欺を未遂で済ませられた時期は、確かニューヨーク勤務の少し前ぐらいだったと記憶している。その頃の僕は既にカジノに常連しており、よって数百万円の損を出したいう話を聞いた母親が最初に考えたのが、「まさか」ではなく「ありえそう」だったわけである。
あの日から数年が経ち、僕に対する疑惑は晴れたといっていい。しかし、オレオレ詐欺が社会問題化するまでは、家族の誰しもが半信半疑だったのではないかと今でも思っている。