与えられるのに取れない、甚だおかしい日本企業の有給休暇
日本企業のビジネスに対する姿勢には短期的利益追求を最優先する米国企業が見習うべきだと思う良さが様々あると思う反面、典型的な日本企業の社風は外資系の職場しか知らない僕からすると随分と理不尽だと思うことが多い。
その一つが有給休暇に対する考え。
僕は毎年有給休暇を使い切るが、日本企業に勤める友人の大半は年々数日の休暇を取る程度で、有給休暇をすべて消化することはまずないらしい。これは有給を取りたくないので取らないのではなく、職場の環境が有給を取らせてくれる雰囲気ではない、というのが大体の理由だ。
こういう話を聞くと僕は、「有給とは与えられた権利であり、それを行使することに関して引け目を感じる必要もなければとやかく言われる筋合いもない」と主張したくなるのだが、このように個人の権利を軸とした米国的な考えは日本人には馴染まないのだろう。
それでも、と思う。協調性を重視する日本人の心が「有給を取ることは不在中に同僚に迷惑をかけることになる」という考え方に繋がるのは理解できるが、だからと言って「だから誰も有給を取らない」という結論になることは甚だおかしい。
というのも、有給休暇を取ることによって同僚にお世話になることはお互いさまのこと。自分が休暇を取っている間に同僚に仕事を代わってもらう必要があるのであれば、その同僚が有給を取った際に自分が彼の仕事を引き受ければいいだけの話。誰もが一年中有給を取らない(というか取れない)職場と、お互いにサポートしながら各社員が順番に休暇を取ってストレスを発散できる職場のどちらの方がより幸せかは一目瞭然だろう。
こういう風に僕の有給に対する考えを日本企業に勤める友人に説明すると、大体「そうだよね」と同意はしてもらえるものの、「でも実際に有給を取るのは難しいよね」と返される。確かに、どんな理屈があっても、ここまで現代日本社会に定着してしまった理不尽さを変えるのは容易いことではない。
これを変化するのは、結局は各企業の経営陣が主導するしかできないことなのだろう。それを示す興味深い話がある。
日本で外資系企業に勤める知人が、春にある大きなプロジェクトの担当に指名された。そのプロジェクトは他社も含む国際的な案件だったため米国でもチームが組まれ、米国チームのリーダーとして知人の同期が選ばれた。その同期、プロジェクトが始まる前から夏休みを取る予定であり、二人の上司は(夏までにはある程度プロジェクトが落ち着くことが想定されていたこともあり)プロジェクト立ち上げ後も同期が休暇を取ることを承諾していた。
ところが休暇が始まる数日前、他社と協議をするための打ち合わせが休暇中の日程で米国で予定されてしまった。この事態に上司は、同期の休暇を取りやめるようなことはせず、日本にいた知人を打ち合わせに出席させるだけのために米国に送った。時間的にもコスト的にも米国にいた同期を参加させた方がはるかに効率的であったのにもかかわらず、である。
知人にとってこの一件は、急きょ米国へ出張に行く羽目になったという面では若干迷惑を被ったものの、そこまでしてでも部下の休暇を守った上司の姿勢が強く印象に残ったという意味から、決して嫌な気持ちになるような出来事ではなかったそうだ。
もちろん、たとえ外資系企業と言えども従業員の休暇のためにここまですることは一般的には考えられないし、そもそもする余裕がないだろう。よって日本の企業に対して同じ対応を期待することは無理な注文であるとは思う。でも日本の企業にはまず、こういう上司がいるということを見習い、「いるからこそ休暇が安心して取れるんだ」という考えが従業員に植え付くことを認識してもらいたいと思う。